第3回 岡崎礼奈(東洋文庫 普及展示部 学芸課長・主幹研究員)
東洋文庫の岡崎礼奈です。東洋文庫は江戸時代の大名庭園である六義園のすぐ近く、駒込という場所にあります。1924年に設立された東洋文庫は、東洋学(アジア全域の歴史・文化を対象とする学問)の研究機関・図書館として、100年近く活動を続けています。ミュージアムは施設の建て替えを機に開設された部門で、今年の秋に開館10周年を迎えました。
東洋文庫の蔵書は100万冊を超え、書籍だけではなく地図や絵画など視覚的に楽しめる資料も含まれています。とはいえ、基本的には東洋学の研究に活用することを念頭に収集されているので、研究者にとっては胸躍る宝の山であっても、多くの方にとってどんな価値があるのか、何が面白いのかが伝わりにくいものが多いのは否めません。そのため、ミュージアムでは東洋文庫の活動と蔵書に対して、来館者に楽しみながら興味をもっていただくことを目標に、展示のテーマや見せ方を考えています。
アジアの歴史や文化に関わるテーマと一口に言っても、その幅はとにかく広い!地理的な「アジア」に限らず、歴史上での人々の動きや文化交流の足跡もふまえた縦横ともに広い視点で展示を企画するので、頭の中は常に世界各地を旅しているようです。そして、歴史資料には視覚的に地味な印象のものが少なくありません。一目で来館者の興味を引く、あるいは心を動かすことが難しい資料の魅力をどのように伝えるのか、毎回「う~ん」と唸りながら真剣に、でも遊び心は忘れないよう、展示方法や解説を考えています。
過去の展覧会チラシの一部。本の形をしているのが特徴。
私のおすすめミュージアム
泉屋博古館東京
おすすめの美術館として六本木一丁目にある「泉屋博古館東京」をご紹介します。住友の美術コレクションを保存公開するために京都に開かれた泉屋博古館の東京館です。京都の泉屋博古館へ行ったことのある方は、中国の青銅器がとくに印象に残っているかもしれませんが、同館のコレクションは中国・日本の書画、西洋絵画、茶道具、日本の近代陶磁器、装束など多岐に渡り、その特徴が展覧会にも反映されています。
私は学生時代に日本の近代美術について研究していたので、とくに近代の作品をメインとした展覧会を見に行く機会が多かったように思います。10年以上前のことですが、近代陶芸の展覧会で板谷波山の代表作『葆光彩磁珍果文花瓶』(重要文化財、泉屋博古館東京所蔵)を初めて見たときの感動をいまでも覚えています。2013・14年、そして2017・18年には、日本画家・木島櫻谷の回顧展が京都と東京で開かれました。櫻谷は行方の分からない作品が多いのですが、国内の美術館、個人が所蔵する作品を集め、この画家の魅力が存分に伝わる展覧会を実現していたのが印象深いです。
展示の内容だけでなく、美術館のロケーションや館内の雰囲気も好きです。六本木という都会のど真ん中にありながら、緑に囲まれた静かな環境は歩いていて心地よく、展示室は作品ひとつひとつをゆっくりと落ち着いて鑑賞できる空間でした。現在、泉屋博古館東京はリニューアルのため休館しています。美術館の建物は、展示室はどのように変わるのでしょうか。来年春の再開が楽しみです。
泉屋博古館東京 外観
泉屋博古館東京 内観