第2回 池田芙美(サントリー美術館 主任学芸員)
サントリー美術館主任学芸員の池田芙美です。サントリー美術館は六本木にある美術館で、日本の古美術やガラスなどの企画展を年に5、6回開催しています。今年で開館60周年を迎える当館は、私立美術館の中ではそれなりに古参になりつつありますが、いい意味での「やんちゃさ」を大切にしているという意味では、少し異色かもしれません。「そう来たか!」と思ってもらえるような斬新な切り口の自主企画展に、常にチャレンジし続けています。出品作の大多数をお借りする場合も多く、長年積み上げてきたご所蔵先との信頼関係は、当館の大きな財産の1つです。
私は2008年から当館に勤務しており、10本の自主企画展を担当しましたが、中でも印象に残っているのが、江戸の版元を取り上げた蔦屋重三郎展や、狩野派絵師としての側面に注目した河鍋暁斎展などです。教科書的ではない視点をあえて取り入れることで、新鮮な発見や驚きに出会える場所を作りたいと思っています。
一方で、コレクションに新たな光を当てる試みも続けています。国宝1件、重文15件を含む約3000件の収蔵品は、「生活の中の美」という基本理念のもとに集められ、ジャンルも絵画・陶磁・漆工・染織・ガラスなど多岐にわたります。2020年には3つのコレクション展を開催しましたが、これまでとは違う展示演出・解説によって、より作品を深く知ってもらおうと、それぞれのチームが知恵を絞りました。古美術は分かりにくいと思われがちですが、実は今の私たちの生活に繋がるテーマも多くあります。機会がありましたら、ぜひ展示室で作品の魅力に触れて頂ければ幸いです。
「リニューアル・オープン記念展Ⅰ ART in LIFE, LIFE and BEAUTY」展示風景
私のおすすめミュージアム
東洋文庫ミュージアム
私がおすすめしたい美術館は東洋文庫ミュージアムです。東洋文庫は1924年に設立した日本最古の東洋学研究図書館で、蔵書は漢籍、洋書、和書など約100万冊に上ります。国宝5点、重文7点のほか、北斎や広重の浮世絵なども所蔵しており、研究者にとっては重要な知の宝庫となっています。
東洋文庫ミュージアムは、その蔵書を公開し、多くの方に東洋学に興味を持ってもらうことを目的として、2011年に開設されました。豊富な資料に裏付けされた、専門性の高い展覧会の数々には、長年積み上げられてきた歴史研究の厚みを感じることができます。たとえば2019年に開催された「東洋文庫の北斎展」では、錦絵の名品はもちろんのこと、研究者が思わず唸るような貴重な逸品も登場し、「東洋文庫の」と銘打たれたことの意義を深く感じることができました。
そして、展示内容だけでなく、展示室の美しさも見どころの1つ。中でも私のイチオシは、「日本一美しい本棚」と称される「モリソン書庫」です。東洋文庫の創設者であった岩崎久彌が、G. E. モリソン博士から購入したアジアの様々な地域に関する欧文の書籍・絵画・冊子などが、巨大な本棚に収められており、なんと撮影もOK。ですが、シャッターを押す手も思わず止まるほど、その迫力に圧倒されます。
東洋文庫ミュージアム 外観
東洋文庫ミュージアム 展示風景