第1回 日野原健司(太田記念美術館 主席学芸員)
太田記念美術館主席学芸員の日野原健司です。太田記念美術館は原宿にある、浮世絵を専門に扱う美術館です。浮世絵は光によって退色しやすいため、頻繁に展示替えをしており、年間で7~9本の展覧会を企画しています。学芸員は私を含めて3人しかないため、年間で担当する展覧会は3本ほど。勤務をしてから18年が経ちますが、これまで担当した展覧会は60本近くになりました。
太田記念美術館は約1万5000点という国内有数のコレクションを誇るため、外部からの借用が少なく、どうにか展覧会を回せていますが、浮世絵という縛りの中で新しい切り口を考えていかなければならないため、常に頭を悩ませています。
これまで開催した展覧会で個人的に印象深いのが、歌川芳艶、歌川広景、小原古邨などといった、研究者でも馴染みのない知られざる絵師を紹介する企画です。作品の発掘や経歴の調査をしていると、自分が初めて情報を探り当てていると感じられるのが醍醐味。マニアックな展覧会となると入館者数は厳しいですが、浮世絵専門の美術館だからこそできる切り口を今後も大切にしていく予定です。
また、太田記念美術館ではTWITTERやnoteといったSNSを使った発信も積極的に行なっていますが、すべて私を中心とした学芸員で担当しています。専門的な視点を楽しく伝えるように心がけていますので、ぜひご覧になってみてください。
twitter:https://twitter.com/ukiyoeota note: https://otakinen-museum.note.jp/
私がこれまで担当したマニアックな展覧会の図録です
私のおすすめミュージアム
サントリー美術館
私が紹介したい美術館はサントリー美術館です。赤坂見附にあった学生時代から、六本木に移転した現在まで25年以上、頻繁に通っています。自分の専門の近さから「その名は蔦屋重三郎」や「谷文晁」、「小田野直武と秋田蘭画」といった江戸絵画の展覧会の記憶が強いですが、多くの展覧会で、日本全国の美術館や寺社、個人コレクターから幅広く作品を集めて展示していることに驚かされます。
美術館の外にいる方は気付きづらいかもしれませんが、外部から作品を借用するには、さまざまなことに気を配った丁寧な交渉を続けねばならず、借用先が多くなればなるほど、準備の大変さは何倍にも膨れ上がります。展覧会でさまざまな所蔵先を目にするたびに、裏の苦労が思い浮かび、この美術館では絶対に働きたくないなといつも思ってしまいます(笑)。
また、サントリー美術館は「生活の中の美」を基本理念として、絵画や陶磁、漆工、ガラスなど、幅広いジャンルのコレクションを数多く所蔵していることも魅力の一つです。しかも近年では、「Information or Inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美」や「日本美術の裏の裏」、「ざわつく日本美術」など、作品の見せ方を挑戦的と言っていいほどさまざまに工夫しており、コレクションをベースにして展覧会を企画する太田記念美術館として、いつも必ず発見があります。
サントリー美術館 外観 ©木奥惠三
サントリー美術館 展示風景 ©木奥惠三