新型コロナの影響で約7カ月休館していた根津美術館が、いよいよ再出発となりました。
前回の展覧会は「虎屋のおひなさま」展が、開幕1週間で休館に。続く「国宝 燕子花図屏風」「茶入と茶碗」「花を愛で、月を望む」と3つの展覧会が丸々中止になっていました。
休館開けの企画展は、墨による表現がテーマ。水墨画と白描画に分けて、その表現の魅力を館蔵の優品で紹介していきます。
会場風景
まず、水墨画から。8世紀の中国で始まった水墨画。まず山水画の手法として発達し、後に花鳥画や人物画も描かれるようになりました。
まるで劇画のような顔立ちが印象的な鷲と鷹は、曾我宗庵による「鷲鷹図屏風」。曾我宗庵の詳細は分かっていませんが、その名から、鷹図を得意とした曾我派の画家と考えられます。奇想の系譜に連なる曽我蕭白の画風を先取りしているようにも感じられます。
室町時代に分割された、牧谿による水墨画の逸品「瀟湘八景図巻」。8代将軍・吉宗はそれらを一堂に集め、狩野古信に模写させました。展示されている「牧谿瀟湘八景図巻摸本」は、そのさらに摸本と思われますが、巻物であった頃の様子がうかがえます。
曾我宗庵筆《鷲鷹図屏風》江戸時代 17~18世紀
《牧谿瀟湘八景図巻摸本》江戸時代 18世紀
続いて、白描画。白い線で描くわけではなく、白い紙に墨の線が映える絵画を白描画と呼び、着色画に対する言い方です。水墨画より歴史は古く、日本にも奈良時代には作例が見られます。
「伊勢物語・源氏物語図屏風」は、1隻に『伊勢物語』の木活字本・嵯峨本にもとづく49場面を、1隻に『源氏物語』54帖から各1場面ずつ(「葵」巻のみ場面)が描かれています。唇にわずかな朱も見られます。
冷泉為恭による「納涼図」は、涼をとる三人は親子でしょうか。白描画は均質な墨線が特徴ですが、冷泉為恭は流麗な動きも与える事で、瑞々しい印象を与えます。
《伊勢物語・源氏物語図屏風》江戸時代 17世紀
冷泉為恭筆《納涼図》江戸時代 19世紀
参考出品として、銹絵(さびえ)の器も。鉄分を多く含む顔料で絵付けをするため、焼成すると茶色から黒褐色になり、水墨画風の味わいが得られます。
「銹絵山水図角皿」は、尾形乾山が鳴滝に開いた窯でつくった初期の角皿。銹絵で水墨の濃淡を巧みに表現し、乾山による賛詩もあいまって、雅な世界が表現されています。
(左手前から)尾形乾山作《銹絵独釣図角皿》江戸時代 18世紀 / 尾形乾山作《銹絵山水図角皿》江戸時代 18世紀 / 尾形乾山作《銹絵蘭図角皿》江戸時代 18世紀
なお、根津美術館では今回の展覧会からオンラインによる日時指定予約制が導入されました。
来館前日までに日時指定入館券を購入(クレジットカード決済のみ)。根津倶楽部会員や招待はがきなどで入館無料の方も、予約が必要です。
予約受付は来館希望日の前日までで、当日の予約はできないのでご注意ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年9月18日 ]