草間彌生、李禹煥、宮島達男、村上隆、奈良美智、杉本博司。世界で活躍する“スター”たち。
6名のアーティストはそれぞれ、高度経済成長期から今日まで、国際的に活躍。多様な地域・世代から評価を得ていています。
森美術館館長の片岡真実は、「6名のアーティストは、簡単に評価を得たわけではない。キャリアの初期から今日まで積み上げてきた経験、葛藤、挑戦や出会いなどを紐解いていくと『スターは1日にしてならず』ということが実感できる」と語っています。
本展では、初期作品から最新作まで、誰でも一度はどこかで目にしたことのある名作が並びます。
美術館会場入口
まず、最初に紹介するのは村上隆。
村上は、オタク文化を作品に封じ込めた「プロジェクトKo2」(1996年-)シリーズを制作。その後、スーパーフラットという理論を提唱します。
日本は浮世絵の時代からセクシャリティに対して、性的なデフォルメが強く、西洋より開放的でした。村上は、当時のオタク文化の中でのどのように表現して行ったのかを直目しています。
新作《チェリーブロッサム フジヤマ JAPAN》(2020年)は、平面的なアニメ的な表現でも空間を表現するため、桜を一面に散りばめた、眩暈をおかしそうな構図にしたとのこと。
「10年、50年、100年経っても、その作家の特色が色あせないというのをビジョンに制作してる。」と村上は語ります。
村上隆《阿像》、《吽像》 2014年 ©2020 Takashi Murakami / Kaikai kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
村上隆《チェリーブロッサム フジヤマ JAPAN》 2020年 ©2020 Takashi Murakami / Kaikai kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
続いては、李禹煥。
20歳で来日し、60年代末に作家活動を開始。「もの派」の中心人物となります。
あらゆるものは世界との関係性、出会いにより成立する。それのみで存在するものはない、と李禹煥はいいます。 その哲学を明快にしめしているのが、《関係項》(1969/2020年)です。当時、従来の概念を壊すことを課題とし、ガラスを割った作品や、何も描かれないキャンバスなど暴力性のある作品を制作していました。
また、韓国と日本、東洋と西洋、絵画と彫刻、イメージと余白などの対立構造の狭間でそれらを繋ぐ媒介として自身が機能することを模索してきました。
その様子は描くことを極力減らし、空間性をもたらしている《関係項―不協和音》(2004/2020年)や《対話》(2019、2020年)の新作絵画2点からも現れています。
李禹煥 《対話》2019、2020年
李禹煥《関係項》1969、2020年
90歳を超えても創作活動が衰えることのない、草間彌生。
28歳で渡米し、1950年代後半からパフォーマンスやファッションなど新しいメディアでの作品を制作。独自の作品世界で注目を浴びます。
本展では、《無限の網》(1965年)やソフト・スカルプチュアという彫刻のシリーズが並びます。これらは、草間のニューヨーク時代を代表とする作品で、同じ形が反復・増殖するというコンセプトは多岐にわたる彼女の作品に共通しています。
最新シリーズ「わが永遠の魂」 は、2009年にはじまり600点を超える作品数となっています。
会場風景 草間彌生の作品
(左から)草間彌生 《季節に涙を流して》 2015年,《女たちの群れは愛を待っているのに、男たちはいつも去っていってしまう》 2009年
宮島達男は、時間や生と死という普遍的な概念を扱い、数字が変化するLEDを用いたデジタルカウンターを使ったインスタレーションの制作を行っています。
1988年、ベネツィアビエンナーレの若手作家部門「アペルト88」で《Sea of Time》を展示。国際的なデビューを果たします。
本展では、その作品を発展。東日本大震災での犠牲者への鎮魂と震災の記憶の継承、そして未来の希望につなげるため、東北に3,000個のLEDの恒久設置を目指す、現在進行形のプロジェクト「時の海 ―東北」を展示しています。1~9の数字がカウントされる様子を生、0=暗くなる瞬間を死として、生と死の繰り返しを時間で表しています。
「それは変化し続ける」、「それはあらゆるものと関係を結ぶ」、「それは永遠に続く」の3つをコンセプトをもとに制作している宮島。「それは永遠に続く」を表現した初期作品《30万年の時計》(1987年)も展示しています。
宮島達男《「時の海─東北」プロジェクト(2020 東京)》2020年
宮島達男《30万年の時計》1987年
奈良美智は、ドローイング、絵画、彫刻、写真、インスタレーションを制作。音楽への造詣も深く、ポップカルチャーと現代美術の垣根を超えた活動をしています。数多く描かれているデフォルメされた子どもには、無邪気さと残酷さが共存しています。
東日本大震災では、自分を見つめ直し、無力さも感じたという奈良。自分のルーツを見つめ、難民キャンプにも各地へ訪れるようになります。はじめて自分の絵に出会ったこどもとのコミュニケーションの手段や言語が、アートとなるという感覚も得られたそうです。
会場では、奈良が所有しているレコードやCDジャケット、ぬいぐるみなどさまざまなコレクションも見ることができます。
奈良美智《Voyage of the Moon(Resting Moon)/ Voyage of the Moon》 2006年,《Miss Moonlight》2020年
会場風景 奈良美智の作品
最後は、写真をメディアとして知られている杉本博司。
杉本の代表作である「海景」(1980年―)シリーズ。本展では、画面を90°回転させた「Revolution」(1982年―)シリーズを展示。視点が地表から浮かび上がることで、宇宙空間へ投げ出され、地球が回転していることが実感できます。
また、処女作であり、現代アートのアーティストとしての第一作である《シロクマ》(1976年)も紹介しています。これは、杉本がアメリカ自然史博物館でシロクマのはく製を撮影したもの。剥製されたシロクマがまるで生きているかのように見える。その錯覚、生と死のはざまを共感してもらうため撮影をしたそうです。
杉本博司《シロクマ》1976年
会場風景 杉本博司 《Revolution》シリーズ
会場には、作品以外にもアーカイブ展示もおこなっています。6名のアーティストの主な展覧会歴、カタログ、展示風景写真などの資料を通して、世界でどのように評価されてきたかを解き明かします。
また、1950年代から今日までに海外で開催された主要な50の日本現代アート展に関する資料では、海外における日本の現代アートの受容の歴史が浮かび上がってきます。
アーカイブ展示
アーカイブ展示
本展は事前予約は不要。10月31日(土)までは「STARSの学割」を実施。学生が半額で入場可能になります。
音声ガイドには、アーティストそれぞれのコメントも収められています。現代アートの入門としてもおすすめできる、贅沢な展覧会です。
[ 取材・撮影・文:坂入美彩子 / 2020年7月30日 ]