昨年11月から休館していたサントリー美術館。改修工事が完了し、8カ月ぶりに再オープンとなりました。
サントリー美術館は2007年に赤坂見附から六本木に移転。今回は、移転後初の大規模改修工事です。
大きく変わったところは、エントランス。カウンターは水をイメージしたガラス製になり、以前は木だったカウンター背面も和紙になりました。美術館を設計した隈研吾建築都市設計事務所が監修しています。
その他、ショップやカフェの壁面はブロンズのメッシュに。天井の耐震性も強化され、展示室内の照明もLEDに更新されたほか、受付・案内スタッフの制服も一新されました。
水をイメージしたエントランスのカウンター
展覧会は、リニューアル記念の第一弾。館蔵品の中から生活を彩ってきた優品をセレクトしたほか、サントリー美術館の新たなこころみとして、古美術に造詣の深い4人の現代作家による作品が、伝統美術と並べて紹介されています。
第1章1節は「装い:浮線綾螺鈿蒔絵手箱と化粧道具」。国宝《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》をはじめ、「装ふ」ための日常道具が並びます。
とても目を引くのが櫛、簪、笄が並ぶ一角。平面が多い櫛には絵画的な意匠が、簪や笄はかたちそのものに工夫が見られます。
第1章1節「装い:浮線綾螺鈿蒔絵手箱と化粧道具」
第1章2節は「装い:美人画と着物」。美人画には当時の最先端のファッションが描かれており、江戸時代の小袖から開国以降の洋装まで、流行の変遷が見て取れます。
描かれた衣装や小物から、持ち主の姿を想像する「誰が袖図屛風」。館蔵の《誰が袖図屛風》には能装束や能面を入れる箱が描かれているのに対し、山本太郎さんが描いた平成の《誰ヶ裾屛風》には、エレキギターやCDラジカセが並びます。
第1章2節「装い:美人画と着物」
第1章3節「装い:鎧兜と戦のいで立ち」。武将にとってのハレの装いは、甲冑。《朱漆塗矢筈札紺糸素懸威具足》は、豊臣秀次所用と伝わる優品です。
この甲冑をモチーフにした《WHO ARE YOU~木下利房と仮定~》は、野口哲哉さんの作品です。野口さんは甲冑の調査から、秀次よりも半世紀ほど後の甲冑と推測しました。どことなく生活感があふれる、野口さんならではミニチュア武将です。
第1章3節「装い:鎧兜と戦のいで立ち」
第2章1節は「祝祭・宴:祝いの調度」。「生活の中の美」を基本理念に収集活動を行ってきたサントリー美術館には、祝いの品々も数多く揃っています。
婚礼調度として制作された屛風や、吉祥のモチーフが散りばめられた漆工などとともに紹介されているのが、彦十蒔絵・若宮隆志さんの作品。どう見ても青銅器に見える《犀の賽銭箱 青銅塗》ですが、これも漆器です。
第2章1節「祝祭・宴:祝いの調度」
第2章2節「祝祭・宴:宴の屛風と酒のうつわ」。今も昔も、宴といえばお酒です。手の込んだ酒器は宴に彩りを与え、金属器、漆器、陶磁器、ガラス器と、素材もバリエーションに富んでいます。
会場の一角では《上野花見歌舞伎図屏風》に描かれた酒宴の再現も。お酒や食事の道具だけでなく、三味や小鼓などの楽器も展示されています。
第2章2節「祝祭・宴:宴の屛風と酒のうつわ」
第3章1節は「異国趣味:南蛮屛風と初期洋風画」。サントリー美術館のコレクションの柱の一つである南蛮美術。重要文化財《泰西王侯騎馬図屛風》は、日本人が西洋の画法で描いた作品です。
このコーナーには、山口晃さんが描いた成田空港の絵も。現代の国際空港を、近世における南蛮貿易の港に見立てています。
第3章1節「異国趣味:南蛮屛風と初期洋風画」 左:成田国際空港 南ウィング盛況の圖(版画) 右:成田国際空港 飛行機百珍圖(版画) いずれも 山口晃 ミヅマアートギャラリー
最後の第3章2節は「異国趣味:異国趣味の意匠(デザイン)」。16世紀後半には、西洋人の好みを反映した「南蛮漆器」も作られました。
漆器に魅せられた西洋人はさまざまな漆器を日本人に注文し、本国に輸出されていきました。
第3章2節「異国趣味:異国趣味の意匠(デザイン)」
当初は5月にリニューアルオープンする予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で延期に。2カ月遅れで待望の再スタートとなりました。
リニューアルを記念した展覧会は、本展を含めて三連続で実施されます。「日本美術の裏の裏」(9/30~11/29)、「美を結ぶ。美をひらく。(仮称)」(12/16~2021年 2/28)も、このコーナーでご紹介する予定です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年7月21日 ]