2001年から開催されている横浜トリエンナーレも、今回で7回目。このコーナーでのご紹介は、2014年、2017年に続いて3回目となります。
今回のアーティスティック・ディレクターを務めるのは、インドのアーティスト集団、ラクス・メディア・コレクティヴ。キュレーターとして外国人が参加した事はありましたが、トリエンナーレ全体のトップを外国人が担うのは今回が初めてです。
主会場は横浜美術館とプロット48で、参加アーティストが参加。早速、横浜美術館からご紹介しましょう。
みなとみらい駅から横浜美術館に向かうとビックリ、建物の正面がストライプの布で覆われています。もちろん、改修工事が行われているわけではなく、これも作品です。
手がけたのは、クロアチア出身のイヴァナ・フランケ(1973-)。鑑賞者と環境をつなぐインスタレーションを得意としています。
ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より イヴァナ・フランケ《予期せぬ共鳴》2020
美術館のエントランスは、キラキラと輝く無数の金属板の森。「AFTERGLOW ― 光の破片をつかまえる」のタイトルを体言するかのような作品は、丹下健三が設計した美術館の広い空間をうまく利用しています。
この作品は、米国出身のニック・ケイヴ(1959-)による《回転する森》。ケイヴは人種やジェンダーなどの社会問題に根ざした作品を制作、1992年のロサンゼルス暴動を受けた作品《サウンドスーツ》などで知られています(ケイヴ自身も黒人です)。
ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より ニック・ケイヴ《回転する森》2020
美術館上階(3階)の暗い展示ケースの中には、東京出身の竹村京(1975-)による、刺繍の作品が見られます。
作品に使われているのは、蛍光シルク。下村脩先生がノーベル賞を受賞した「オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質」に由来する遺伝子を使って開発された光る糸です。決して強い光ではありませんが、繋がれた部分がしっかりと強調されます。
ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より 竹村京
韓国のキム・ユンチョル(1970-)の《クロマ》も、目を引く作品。有機的な形状は、数学の結び目理論に基づいたものです。
作品に科学や数学の理論を応用する、キム・ユンチョル。2016年には、科学と芸術の融合に貢献した人に与えられるアワードを受賞、電子音響音楽の作曲家としても活動しています。
ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より キム・ユンチョル《クロマ》2020
美術館の入口脇にあるので見逃してしまいそうですが、コニー・アンテス(1978-)と、レベッカ・ギャロ(1985-)によるメイク・オア・ブレイクの《橋を気にかける》にも注目。霧吹きボトルには塩水が入っており、鑑賞者が鉄の橋に吹きかける事で、錆びを促します。
異なる場所を繋ぐ橋。保存と伝承を基本とする美術館で、劣化を促す行為。いろいろな問いが投げかけられてくるようです。アーティストは二人とも、オーストラリア出身です。
ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より メイク・オア・ブレイク (レベッカ・ギャロ&コニー・アンテス)《橋を気にかける》2020
続いて、プロット48会場へ。横浜美術館から徒歩10分弱。広範囲の芸術祭も良いですが、コンパクトな会場は展覧会としての一体感が出やすいようにも感じられます。
普通のゲートのように見えるこちらも、展示作品。ロッキング・チェアのような脚がついており、押すと大きく揺れるものの、決して倒れる事はありません。手がけたのは、台湾出身のジョイス・ホー(何采柔 1983-)です。
ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より ジョイス・ホー(何 采柔)《バランシング・アクト Ⅲ》2020
黒い壁面を照らす投光器、ミュージッククリップの一場面のようなクールな雰囲気です。壁の下にはチョークボールの白い塊があり、壁には跡が付いている事から、ボールが壁に投げつけられた事が分かります。監視社会の歴史を反映した作品を展示したのは、ハイグ・アイヴァジアン(1980-)。レバノン出身のアーティスト、キュレーターです。
ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より ハイグ・アイヴァジアン《1,2,3 ソレイユ!(2020)》2020
フィリピン出身のラス・リグタス(1985-)の作品は、性がテーマ。海を思わせる青いシーツのベッドにはヒトテのオブジェとアダルトグッズ、そして裸の人形たち。作者は自身のオルター・エゴ(=分身)である複数のキャラクターによるパフォーマンスも行っています。
ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より ラス・リグタス《プラネット・ブルー》2020
台湾出身のアリュアーイ・プリダン(武玉玲 1971-)、ルーツは台湾原住民であるパイワン族の貴族の家系です。身近にあった部族の伝統衣装を発想源に、鮮やかな布製の作品を制作。台湾外では初の発表となる今回は、大きな作品が壁面を飾ります。
ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より アリュアーイ・プリダン
そして、最もインパクトが強かったのが、エレナ・ノックス。水、空気、海藻、バクテリア、そしてエビを入れて閉じた水槽に光を当てると、生態系が自己完結するため生き続ける事はできますが、なぜかエビは繁殖はしません。「閉ざされた空間における官能性」を探るため、エビのためのポルノグラフィーとして、小部屋からトイレまで至るところが作品の舞台に。お化け屋敷のような、ビックリ箱のような、エネルギッシュな作品でした。
ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より エレナ・ノックス《ヴォルカナ・ブレインストーム(ホットラーバ・バージョン)》
ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より エレナ・ノックス《ヴォルカナ・ブレインストーム(ホットラーバ・バージョン)》
新型コロナの影響で、ディレクターのラクス・メディア・コレクティヴを含め、多くの海外からのアーティストが来日できない状況に陥りましたが、オンラインミーティングを重ねた事で実現に至った本展。“with コロナ”時代における芸術祭の、大きな指標になりそうです。
横浜美術館への入場は日時指定が必要。プロット48は横浜美術館と同じ日なら、いつでも入場できます。9月11日から始まる「BankART Life Ⅵ」「黄金町バザール2020」展も一緒に楽しめる「横浜アート巡りチケット」も発売中です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年7月16日 ]