アニメやフィギュアなど、いわゆるオタク系のカルチャーを取りこんだ作品で、世界を舞台に活躍する村上隆さん。その展覧会もヴェルサイユ宮殿をはじめ世界各地で開催されていますが、日本に限ると、2001年に東京都現代美術館で開催された「村上隆展 召喚するかドアを開けるか回復するか全滅するか」が最後。実に14年ぶりの大規模展になります。
本展はタイトルこそ「五百羅漢図展」ですが、会場にはその他の作品も紹介。村上さんがこれまでに手掛けたキャラクターが合体した作品や、大型の彫刻など、すべて日本初公開です。
会場《五百羅漢図》は、ギャラリー3に「青竜」と「白虎」、ギャラリー4に「朱雀」と「玄武」で、向かい合わせに展示されています。2012年にドーハで発表されましたが、今回の里帰りを機に一部が加筆されたため、完成版としては初公開になります。
羅漢とは、釈迦の教えを広めた聖人のこと。江戸時代中期には各地で五百羅漢の木像・石像が作られ、幕末の絵師・狩野一信が描いた《五百羅漢図》全100幅(増上寺蔵)は震災直後に開かれた展覧会で披露され、大きな話題を呼びました(
当時の取材レポートはこちら)。
異様な表情の羅漢が並ぶ、村上版の《五百羅漢図》。死や限界をテーマに宗教的な領域まで踏み込みながら、味付はあくまでも村上流。厳粛さと微笑ましさが同居したような、不思議な主張が迫ってきます。
村上隆《五百羅漢図》 2012年制作工房の機能も持つ、有限会社カイカイキキの代表でもある村上さん。20年以上前から、工房制で作品を制作しています。
《五百羅漢図》は、そのスタイルの集大成ともいえる作品です。日本中の美術大学からスタッフを集め、200人以上が参加する事によって、この大作を一気に完成させました(約10年かけてコツコツと制作し、96幅まで描いた所で亡くなった狩野一信とは対照的です)。
本展では、その創作プロセスの一端も紹介されています。資料、スケッチ、下図、そしてスタッフへの檄も記された指示書など、一般的な美術展ではお目にかかる事があり得ない品々。アシスタントとのコラボレーションを重視し、絵が上手いスタッフだけでなく「奇妙な線を引くアシスタントを重用する」という村上スタイルの秘密に迫る事ができるこのコーナーは、ある意味、本展の一番の見せ場ともいえるかもしれません。
《五百羅漢図》の創作プロセスを紹介会場では前述の狩野一信による《五百羅漢図》と、長沢芦雪の《方寸五百羅漢図》も展示(会期中展示替えあり)。江戸時代の絵師による作品と村上隆さんの作品を比較して見せる試みもユニークです。
写真撮影はもちろん、動画の撮影も可能という太っ腹の展覧会(動画は携帯およびスマートフォンのみ。いずれも三脚とフラッシュは使用できません)。ぜひSNS等で、村上隆ワールドを拡散してください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年10月30日 ]©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.■村上隆の五百羅漢図展 に関するツイート