衣桁(いこう)や屏風に掛けられた衣装を描いた絵図、誰が袖図。江戸時代のはじめ、17世紀前半に数多く描かれました。
裸婦像などでは脱いだ衣装が描かれる事もありますが、それらでは服はあくまでも脇役に留まるのに対し、誰が袖図は衣装が主役。人物が描かれない事も珍しくありません。
誰が袖図には幾つかのタイプがありますが、
根津美術館が所蔵する3点はそれぞれが個性的。一点づつの特徴を見て行く事で、さまざまな誰が袖図の世界をお楽しみいただけます。
また展覧会では、美人画なども同時に紹介。近世の風俗についてもあわせて展観します。
会場入口から。本展は展示室1で開催されています。1点目は《誰が袖美人図屏風》、左隻に二人の人物が描かれています。禿(かむろ:見習いの少女)が遊女に文を渡す素振りを示している事から、誰が袖図と遊里(遊郭)との関わりが伺えます。
衣桁(いこう)に掛けられた着物は、右隻が女物、左隻が男物。右上には懸守(かけまもり:首にかける円筒状のお守り)も見えます。
良く見ると舞台は室内なのに、なぜか端には桜や松なども。ちょっと不思議な構成です。
《誰が袖美人図屏風》江戸時代2点目の《誰が袖図屏風》は、背景に障子が描かれているものの、人物の姿は見えません。
着物は右隻に亀甲つなぎの唐織、左隻には上段に子供用の振袖、下段に桜花模様の振袖などが描かれています
衣装以外の調度品も描かれており、右端には双六盤、中央付近には硯箱と冊子。部屋の主を想像しながら絵図を楽しむ趣向です。
《誰が袖図屏風》江戸時代3点目の《誰が袖図屏風》はよりシンプルで、背景は何も描かれず金地のみ。誰が袖図で最も多く見られるのが、このパターンです。
右隻の衣桁は豪華なしつらえですが、左隻はシンプルな青竹(この組み合わせは2点目も同様です)。
室内に着物をかけて飾りにする「衣桁飾り」との関連も考えられます。
《誰が袖図屏風》江戸時代本展は企画展示室1で開催、他の展示室ではいつものようにテーマ展示が開催中です(展示室2「婚礼衣裳 ─ 旧竹田宮家所蔵品を中心に ─」、展示室5「館蔵の銘碗20撰」、展示室6「霜月の茶会」)。
中でもオススメは「館蔵の銘碗20撰」。
根津美術館が所蔵する茶碗から、《雨漏堅手茶碗》《鼠志野茶碗 銘 山端》《青井戸茶碗 銘 柴田》(いずれも重要文化財)をはじめ20碗がずらりと並びます。お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年11月12日 ] |  | 日本美術史
山下裕二 (監修), 高岸輝 (監修) 美術出版社 ¥ 2,940 |