日本とオーストリアの国交樹立150周年を記念して東京・上野の国立西洋美術館では、「ハプルブルク展」を開催しています。
「ハプスブルク家」と聞くとまずフランス王妃マリー・アントワネットの実家、そしてその母である女帝マリア・テレジアなどを思い浮かべる方が多いかもしれません。
「戦争は他家に任せておけ。幸いなオーストリアよ、汝は結婚せよ。」という言葉が残されているように、ハプスブルク家の略系図を見ると、拠点のオーストリアから神聖ローマ皇帝、スペイン王国、フランス、トスカーナと彼らの血族、姻族は広がっていきます。
ヨーロッパの王室で次々と血を流すことなく、その血筋を広げていったというのは驚きです。
本展はそんな名門中の名門、ハプスブルク家の秘宝の数々を見ることができます。
中央 ラファエロ・サンツィオ(カルトン)、ヤーコブ・フーベルス(父)の工房(織成)《アナニアの死》、連作〈聖ペテロと聖パウロの生涯〉より ブリュッセル 1600年頃、ウィーン美術史美術館、美術工芸館
ハプスブルク家の基礎を築いたマクシミリアンⅠ世の肖像を見て広い展示室に降りると大きなタペストリーと甲冑の展示の豪華さに息をのんでしまいます。
甲冑の展示風景
これらの甲冑は15~16世紀のものとは思えないほどピカピカに磨かれていました。
細かい細工の美しさに目を奪われながら、これを身に着けるとどのくらいの重さなのか、視野はどれくらいなのか、そんなことを考えていました。
手前 作者不詳、大美椰子の水差し 南ドイツ(アウクスブルク?)、16世紀第四四半世紀、ウィーン美術史美術館、美術工芸館
本展では贅沢な調度品も見ものです。
写真手前の水差しは大実椰子でできています。
当時ヨーロッパでは大実椰子は大変珍しかったのでとても高価なものだったようです。
このように上品な金細工で装飾されていて、南国の素朴な素材もハプスブルク家の一室に調和するほどの逸品に生まれ変わっています。
ディエゴ・ベラスケス《青いドレスの王女マルガリータ・テレサ》1651-1973年、ウィーン美術史美術館
こちらは本展のアイコン的存在になっている王女マルガリータの肖像です。
彼女の姿は《ラス・メニーナス》をはじめとしてベラスケスらによって、何枚も肖像画が残されています。
15歳で結婚し、21歳で亡くなってしまうという虚弱な女性だったようですが、ベラスケスの作品の彼女はバラ色の頬と大きな瞳の愛らしい姿で今も人々を魅了します。
左から ティントレット《甲冑をつけた男性の肖像》1555年、ヤン・ブリューゲル(父)《東方三博士の礼拝》、1663年以前、ともにウィーン美術史美術館
権力と財力を持つハプスブルク家の人々は、アルブレヒト・デューラー、ティントレット、ヤン・ブリューゲル(父)などの、ヨーロッパのあちこちから名画を収集しており、こちらの会場でその一端を知ることができます。
左から フランス・ライクス《オーストリア大公フェルディナント・カールの肖像》1648年頃、アンドレア・マンテーニャ《イサクの犠牲》1490-95年頃、ともにウィーン美術史美術館
こちらの《イサクの犠牲》は、壁紙の上にレリーフが飾ってあるようにも見えます。
石のような質感も絵画で表現している巧みな描写はとても見事でした。
マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブラン《フランス王妃マリー・アントワネットの肖像》1778年、ウィーン美術史美術館
こちらはマリー・アントワネットの肖像です。
3メートルほどの大きなこの作品は、遠くから見てもオーラを感じます。
たっぷりと膨らみのある白い光沢のあるドレスは贅沢であるだけでなく、上品な美しさがあります。
これを描いたヴィジェ=ルブランは、アントワネットお気に入りの女性画家でした。。
仲の良い女性同士の画家とモデルが談笑をしながら描かれたのではないかしらと思えるほど、親密な雰囲気も醸し出しています。
右から マルティン・ファン・メイテンス(子)《皇妃マリア・テレジアの肖像》1745-50年頃、アントン・フォン・マロン《マルスの彫像を伴う神聖ローマ皇帝ヨーゼフ2世の肖像》1775年、ヨハン・カール・アウアーバッハ《ホーフブルクで1766年4月2日に開催されたオーストリア女大公マリア・クリスティーナとザクセンのアルベルトの婚約記念晩餐会》1773年、いずれもウィーン美術史美術館
本展の4章は、右のマリア・テレジアはじめ、ハプスブルク家の人々の大きな肖像画が続きます。
写真のない時代では肖像画はその人の偉大さを誇示したり、婚約を決めるためのアピールであったりしました。
豪華な衣装に身を包んだ立派な絵姿は十分その役割を果たしていたことでしょう。
ヨーゼフ・ホラチェク《薄い青のドレスの皇妃エリザベト》1858年、ウィーン美術史美術館
こちらはシシィという愛称で呼ばれる皇妃エリザベトの肖像です。
大変おしゃれで美しい人だったそうで今なお本場オーストリアでは人気のある人です。
この肖像画のウエストの細さにはびっくりです。
彼女は自分の容姿にとても気を使い、ダイエットにも熱心だったそうなので、この絵はもしかしたら誇張でないのかもしれません。
ハプスブルク家の人々はそれぞれに個性的で魅力的だったように思えます。
富と権力を持った彼らがヨーロッパ諸国の王室で華やかな暮らしをしていたことに思いを馳せることができる楽しい展覧会でした。
エリアレポーターのご紹介
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松田佳子
湘南在住の社会人です。子供の頃から亡き父のお供をして出かけた美術館は、私にとって日常のストレスをリセットしてくれる大切な場所です。展覧会を楽しくお伝えできたらと思います。
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