ラファエルを規範とし、形式と慣例に縛られていたアカデミズムに真っ向から反旗を翻したRPB。展覧会ではグループの結成から1890年代までを通し、RPBの急進性を幅広く紹介していきます。
テート美術館から出展されたのは、計72点。ここではRPBの中心的な存在だったジョン・エヴァレット・ミレイ、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハントの3名の作品を、複雑な人間関係も含めてご紹介いたします。
会場入口から会場に入ると、早くもこの作品。報道内覧会でも多くの人で賑わっていました。
PRBで最も有名な1枚である、ジョン・エヴァレット・ミレイ《オフィーリア》。シェイクスピアの戯曲「ハムレット」に登場する悲劇の美女を描いた作品です。
モデルは、後にロセッティの妻になったエリザベス・シダル。水を張ったバスタブでポーズを取ったため、肺炎になりかけたというエピソードも伝わります。
小川や草原を精密に描いた背景と、硬直して横たわるヒロイン。PRB随一の実力者であるミレイが、物語の世界観を真実味あふれるタッチで描いた傑作です。
ジョン・エヴァレット・ミレイ《オフィーリア》初期のPRBで最も議論の的になったのが、同じくミレイによる《両親の家のキリスト(「大工の仕事場」)》です。
父のヨセフの仕事場で、手を傷つけてしまった少年イエス。心配そうな母のマリアを案じ、イエスがマリアの頬に口づけしています。
イエスの将来を予見したドラマ性のある作品ですが、足の爪が汚れたイエスは労働者階級そのもの。当時の常識から大きく逸脱したその表現は、批評家たちの非難の的になりました。
ジョン・エヴァレット・ミレイ《両親の家のキリスト(「大工の仕事場」)》ハントの代表作《良心の目覚め》は、後半に登場します。裕福な男性に囲われている愛人が、自分の生き方の間違いに気が付いて立ち上がる瞬間を描きました。
モデルは労働者階級出身のアニー・ミラーで、ハントの婚約者。ハントは文盲の彼女をレディにするため教育しましたが、彼女はロセッティと密通。結局、二人の婚約は破棄となってしまいました。
ウィリアム・ホルマン・ハント《良心の目覚め》ロセッティ《プロセルピナ》は、会場の最終盤です。プロセルピナはローマ神話に登場する女神で、石榴(ザクロ)の実を食べたために、地上と冥府の両方で生きねばならなくなりました。
モデルのジェイン・モリスは、ウィリアム・モリスの妻。ロセッティとモリスは盟友でしたが、ジェインはロセッティにとってファム・ファタール(運命の女)、平たく言えば愛人でした。「冥府に囚われたプロセルピナ」は、ジェインの境遇も重ね合わせています。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ《プロセルピナ》1853年頃までには分裂してしまったPRB。ただ、その歩みは唯美主義やアーツ・アンド・クラフツ運動につながっており、後の英国近代美術を大きく発展させました。
メディアの扱いも大きく多くのファンを集めそうな注目展。会期中は無休、20:00まで観覧可能ですので、会社帰りでも楽しめそうです(1、2月の火曜日は17:00まで。いずれも入館は閉館の30分前まで)。
巡回せずに東京だけでの開催ですので、お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年1月24日 ]※作品は全て ©Tate,London2014