「作品と空間と鑑賞者の3角関係」
「見逃しませんように!」
フロアマップを片手にいざ、気合を注入します。
少々興奮気味な私は今、静岡県長泉町にあるヴァンジ彫刻庭園美術館の「須田悦弘 ミテクレマチス」展の入口にいます。
《白万重》2018年 木に彩色
須田悦弘展に行かれたことのある人なら、この気持ちわかってくれるのでないでしょうか。
いつもは素通りしてしまう天井の隅や、気に留めることのない会場の端っこ、と思えば本と本の隙間に、作品は存在してしまいます。「見つけた!」と喜ぶ私と、冷静な作品。
1つ作品を見つけては次の作品へ・・・。うん?これでは作品を見ているのではなく、確認している?
《ミケリテ》2018年 木に彩色
須田さんの作品は、本物の花や雑草のようで、いつまでも眺めていたくなります。
今回の展覧会でも庭では本物のクレマチスが咲き、その蔓が館の中に伸びてきたかと思えるほど、見事です。
1点1点に満足しながら、一番奥にある資料室へ向かいます。
ここでは約25分間の須田さんのインタビューが流れていました。
《睡蓮》2018年 木に彩色
映像では、木を彫るきっかけや、制作についての手順、過去の作品についてなど、様々なことを話されていました。
特に、作品を置く場所についての話は、とても興味深いものでした。
台座があり、会場の真ん中、またはライトが当たる用意されたステージのような場所に作品を置くのではなく、あえて隅や見えにくいところに配置することも、須田さんの表現の1つだと知りました。
いわゆる「何でもあり」の現代アートと言うものの、見ているわたしたちはいつの間にか、勝手に「美術鑑賞の常識」を作っていたと気づかされます。
それは鑑賞者だけでなく、作家側にも言えることなのかもしれません。
その壁を打ち破ろうとしている須田さんは「現代美術作家」なのです。
木彫作品ゆえに、「彫刻家」と意識していましたが、作品と置かれる空間の関係を重要視し、インスタレーションという形式で作品を発表している作家なのです。
《踊場》2018年 木に彩色
会場に戻り、再び作品を前にします。
作品周辺の空間が切り取られ、クローズアップされていきます。
作品が、じっと私を見ています。強い存在感です。
その反面、さりげなく、そっと佇み、その場所に溶け込んでいるかのようにも見えます。現代の「侘び寂び」、日本の美を意識させられます。
こんな2つの反する感覚の間で揺れながら、不思議な魅力はどんどん膨らみます。
美術館から一歩出ると、広い庭には多種のクレマチスが咲き乱れ、芝生が青々と輝いています。自然を隅々まで愛でたくなります。小さな作品が私の視覚、感覚を変えてしまったようです。
素のままに、まずは会場をめぐり、気配を感じてみてください。
(あ、でも作品を見逃すのはもったいないので、2周目に、フロアマップ片手に見て回るのはいかがでしょうか。)
エリアレポーターのご紹介
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カワタユカリ
美術館、ギャラリーと飛び回っています。感覚人間なので、直感でふらーと展覧会をみていますが、塵も積もれば山となると思えるようなおもしろい視点で感想をお伝えしていきたいです。どうぞお付き合いお願いいたします。
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