森美術館は2003年10月の開館。オープニング展覧会は「ハピネス:アートにみる幸福への鍵 モネ、若冲、そしてジェフ・クーンズへ」で、テーマは「幸福」でした。10周年記念の今回は「愛」がテーマです。
恋愛をはじめ家族愛、人類愛などさまざまな愛のかたちを「愛ってなに?」「恋するふたり」「愛を失うとき」「家族と愛」「広がる愛」の5章で紹介します。出展作品は約200点と、大規模な記念展となりました。
会場に入るとすぐに目に入る巨大な立体作品は、展覧会メインビジュアルのジェフ・クーンズ《聖なるハート》。ラッピングされたハート形のチョコレートから着想しました。
第1章「愛ってなに?」「恋するふたり」の章に進むと、古典的な名作も紹介されています。
ブロンズ彫刻は、オーギュスト・ロダンの名作《接吻》。ロダンの弟子&愛人だったカミーユ・クローデルも共同制作しましたが、この後二人は別れ、カミーユは精神を病んでしまいます。
絵画もルネ・マグリット、フランシス・ピカビア、ジョルジュ・デ・キリコら、男女(でないものもありますが)の愛の世界がずらり。18禁の小部屋では、春画も少し展示されています。
「家族と愛」は人が最初に出会うコミュニティ、家族の中に存在する愛について。親、子、祖父母、兄弟…ここでも愛のかたちは多様です。
第4章「家族と愛」「広がる愛」では、既存の枠組みを超えた愛の姿が紹介されます。
秋葉原で購入した高級セックス・ドールに服を着せて自宅で撮影したローリー・シモンズ(女性です)の「ラブ・ドール」シリーズ、長崎の島原の海に生息する石灰藻で聖母マリア像をつくった森淳一《coma》など、インパクトの強い作品が並びます。
第5章「広がる愛」展覧会の最後は、初音ミク。2007年に発売されたボーカロイド(ボーカル・アンドロイド)のソフトウェアは、多くの音楽・映像クリエイターを巻き込み、無数の楽曲・CG・イラスト類が生まれました。
生身のアイドルに対する一方的な愛情とは異なり、愛情が初音ミクを進化させ、進化した初音ミクがさらに愛着をつくる。筆者はこの手のジャンルは門外漢ですが、初音ミクを育てる愛のネットワークはなぜか涙腺を刺激します。
第5章「広がる愛」で紹介された、初音ミクテーマが巨大なこともあって、さまざまなジャンルの作品を堪能できる楽しい企画です。こういった展覧会から、自分の対象外だったジャンルに興味が広がることもしばしば。無心でお出かけください。
なお、草間彌生など3点のみ撮影できる作品もありますので、カメラもお忘れなく(フラッシュ、三脚、動画はNGです)。(取材:2013年4月25日)