美術と社会の関係が問われる事が増えた現在、注目すべき展覧会が東京都現代美術館で開催されています。
展覧会は、東京都現代美術館とカディスト・アート・ファウンデーションとの共同企画。カディスト・アート・ファウンデーションは現代の重要な問題を提起し、進歩的な社会の創造に貢献するという信条を掲げており、東京都現代美術館とは2016年から連携しています。
今回は、いろいろな事象と結びつく「もの」をテーマにした展覧会。世界的に注目される12人/組のアーティストが紹介されます。
会場
冒頭には、モザイク壁画が入った木の箱が積み上げられた作品から。オーストラリア出身のトム・ニコルソン(1973-)は、植民地主義的歴史を題材に、ドローイング、映像、インスタレーション、アクションなど幅広いメディアで表現しています。
展示されている《相対的なモニュメント(シェラル)》は、第一次世界大戦中にガザ近郊で戦っていたオーストラリア兵が発見し、兵士たちによって持ち帰られた「シェラル・モザイク」から着想。新たな「シェラル・モザイク」をガザに返還する展望を描いています。
トム・ニコルソン
ピオ・アバド(1983-)はフィリピン出身。その作品で政治的不正を批判し、不正に異を唱える人々への連帯を示します。
《ジェーン・ライアンとウィリアム・サンダースのコレクション》は、マルコス政権がテーマ。マルコスとその妻イメルダが所有し、後にフィリピン政府に差し押さえられた絵画をポストカードにしました。作品タイトルは、夫妻がスイス銀行の口座名に使っていた偽名。鑑賞者がポストカードを持ち帰ることは、人々への返還を象徴しています。
ピオ・アバド
磯辺行久(1935-)は東京出身。ペンシルバニア大学で地質学、生態学、文化人類学などを学んだ経験もあり、図形や統計記号などを表現に組み込んでいます。
地図を発展させたような作品には、独自の視点が加えられ、気候変動や土壌汚染などの問題を提示。自然と文明の対立には異を唱え、自然と人間活動の長期的な共存に目を向けていきます。
磯辺行久
デイル・ハーディング(1982-)は、オーストラリア出身。中央クイーンズランドのビジャラ、グンガル、ガリンバルの子孫で、ドクメンタ14や今年のリヨン・ビエンナーレでも取り上げられた注目の作家です。
《正しい判断で知りなさい》シリーズの本作は、祖母から受け継いだ木彫のウーメラ(投槍器)と、彼の叔父が執筆した書籍「ティム・ケンプ氏のオーラルヒストリー」の写本を展示。壁面にあるウーメラのコンポジションは、先人から受け継いだ技法で、赤黄土を吹き付けて転写しています。
デイル・ハーディング
最後は、東京出身の藤井光(1976-)による《解剖学教室》。映像の前に、民具や化石などの展示物が並びます。
これらの展示物は、福島県双葉町の双葉町歴史民俗資料館にあったものですが、同館は福島原発事故の後に指定された帰還困難区域にあるため、資料は館外に運びだされて保管中されています。
土地の歴史を示す資料を前に、災害がもたらす文化と記憶の危機を考察します。
藤井光
日本で初めて紹介されるアーティストも多数出展している本展。新型コロナの影響もあって「さまざまな国から注目のアーティストの作品が…」といった類の展覧会は、しばらく開催が難しくなる可能性もあります。現代アートファンの方は、お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年6月10日 ]