旧ブリヂストン美術館から建物、名称と大きく変わったアーティゾン美術館。石橋財団コレクションと現代美術家が共演する「ジャム・セッション」も、新しい美術館としての新たな試みです。
この展覧会では、アーティストと学芸員の共同により企画構成されます。石橋財団コレクションからインスパイアされて制作した作品を展示し、双方のセッションによって新たな視点を生み出していきます。
記念すべき第一回の美術家は、鴻池朋子(1960-)。国立新美術館で開催中の「古典×現代2020―時空を超える日本のアート」展にも参加するなど、今、最も注目を集めているアーティストのひとりです。
会場風景
会場は、かなり凝ったつくりです。入口から壁沿いに真っ直ぐに進むと、左手にカミーユ・コローの《オンフルールのトゥータン農場》(石橋財団コレクション)。その前には、天井から動物の毛皮が何枚も吊るされています。鴻池の作品にしばしば登場する毛皮、来場者はその毛皮をかき分けて前に進んでいきます。
吊り下げられた毛皮
さらに白いテープをかき分けて進むと、広い空間に到達。ここには螺旋状のスロープがあり、登った先には滑り台が。都心の美術館の展示室で、滑り台を滑った人はあまりいなないでしょうか。
下に降りると、地球断面図、流れ、竜巻などが描かれた襖絵に囲まれます。
滑り台と襖絵
巨大な絵画は《ドリームハンティンググラウンド カービング壁画》。山々や動物などがべニアに水彩で鮮やかに描かれ、一部に毛皮も貼り付けられています。2018年の秋田での展覧会では、来場者が自由に触れる作品として出展されました。
《ドリームハンティンググラウンド カービング壁画》
その裏には影絵の作品《影絵灯篭》も。回転する灯篭には、自転車のタイヤを使用。展覧会にあたり鴻池はブリヂストン発祥の地である久留米に赴き、工場をくまなく見学するなど、入念なリサーチを重ねています。
《影絵灯篭》
奥に進むと「物語るテーブルランナー」プロジェクト。鴻池が出会った様々人から聞いた個人的な話を、鴻池が下絵にし、語った人がその下絵を手芸でランチョンマットにする、というもの。多くの人が関わって「語り」が「もの」になる作品です。アルフレッド・シスレー《森へ行く女たち》とともに展示されました。
「物語るテーブルランナー」プロジェクト
「声の映像の部屋」にはフィンランドやスウェーデン、秋田などで撮影された映像も。カヌーで川を登ったり、雪山に埋まったりと、鴻池自身が様々な事にチャレンジします。
「声の映像の部屋」《ツキノワ川を登る》
他の壁面やスロープの下にも作品がずらり。牛革を縫い合わせて作った巨大な《皮トンビ》、ヒグマとオオカミの毛皮が木枠に閉じ込められた《カレワラ叙事詩》、《オオカミ皮絵キャンバス》はギュスターヴ・クールベ《雪の中を駆ける鹿》と並べて展示されています。
《皮トンビ》
《カレワラ叙事詩》
(左)《オオカミ皮絵キャンバス》 / (右)ギュスターヴ・クールベ《雪の中を駆ける鹿》
旧ブリヂストン美術館と異なり、作品を吊る事が可能になり、天井高も高くなったアーティゾン美術館。観客の視点を大きく動かす本展は、新美術館の特性を存分に活かした展覧会となりました。ジャム・セッションは今後も毎年一回開催される予定です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年6月26日 ]