数世紀にわたり、広大な領土と多様な民族を支配したハプスブルク家。展覧会には、オーストリア系ハプスブルク家の主要コレクションを引き継いだウィーン美術史美術館が全面的に協力しており、帝室ならではの華麗な美術品が揃いました。
会場は年代別で、5章7セクションの構成。主要な王族にもスポットをあてつつ、絵画、版画、工芸など多彩なコレクションを紹介します。
展示室に入ると、神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の肖像から。巧みな婚姻政策で領土を拡張し、ハプスブルク家隆盛の基礎を築いた中興の祖です。芸術を保護するとともに、武芸にも秀でており、生涯に27の戦を戦いました。
地下の展示室には、そのマクシミリアン1世の甲冑も含め、美しい4つの甲冑が並びます。中世末期からルネサンスを通じて、甲冑は男性が所有しうる最も高価な着用品のひとつでした。
稀代のコレクターとして名高い皇帝が、神聖ローマ皇帝ルドルフ2世。政治力には疑問符がつきますが文化人としては超一流で、宮殿内にクンストカマー(芸術の部屋)を設け、百科全書的なコレクションを築きました。
芸術家を宮廷に集めて作品を制作させるなど、ルドルフ2世は文化政策を強力に推進。プラハは芸術の中心地として発展していきました。
スペイン絵画の黄金時代を代表する画家が、ディエゴ・ベラスケスです。スペイン国王フェリペ4世付きの宮廷画家となり、王族の肖像画や、王宮や離宮を飾るための絵画を描きました。
展覧会のメインビジュアルである、王女マルガリータ・テレサを描いたのもベラスケスです。ベラスケスは王女が3歳、5歳、8歳の時に単独の全身像で描いており、8歳のこの作品は、ベラスケス最晩年の傑作と評されています。
皇妃マリア・テレジアは、オーストリアの歴史で最も重要な人物です。卓越した政治手腕で近代化を推進。恋愛結婚した夫との間に16人の子をもうけました。
その第15子が、ご存じマリー・アントワネット。大きな肖像画は、王妃お気に入りの女性画家ヴィジェ=ルブランによる作品です。高貴で健康的な王妃とドレスの美しさが際立ちます。
会場終盤には、オーストリア=ハンガリー二重帝国の皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の肖像画。68年という長い治世において、今日のウィーンの街を整備しました。ハプスブルク家のコレクションをまとめたウィーン美術史美術館をつくったのも、この皇帝です。
フランツ・ヨーゼフが没した2年後、1918年に第一次世界大戦が終結。帝国は消滅し、ハプスブルク家の支配は終わりました。
ヨーロッパ名門家のコレクションを紹介する展覧会は他でも行われていますが、家格でいえばハプスブルク家が文句なしの頂点です。展覧会は巡回せず、国立西洋美術館のみでの開催となります。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年10月18日 ]