ベルリンを制作拠点とし、国内外で制作活動を行っている現代美術家、塩田千春(1972-)。人間の根源的な問題「生と死」に向き合いながら、「生きることとは何か」「存在とは何か」を問い続ける数々の作品を発表しています。
塩田の出身地である大阪で、16年ぶりとなる大規模展「塩田千春 つながる私(アイ)」が開催中です。
大阪中之島美術館
コロナウイルスによるパンデミックは、非常に大きな衝撃を受け、これまで多くの人と繋がっていたことを認識したと語る塩田。会場では「他者とのつながり」を探求し、「私/I」「目/EYE」「愛/ai」の3つの『アイ』に視点を置いて作品が展開されています。
会場は、美術館の5階。エスカレーターを上ると見えるインスタレーションは、オーストラリアの強制収容所での逸話から着想を得た《インターナルライン》。ナチス政権時代に、収容所で働いていた職員の女性が1人の男性にパンを恵み、その後に生まれた2人のエピソードをもとにした作品で、「愛/ai」がテーマになっています。
《インターナルライン》2022/2024年
入口を抜けると現れるのは、白い糸が展示室全体を包み込んでいるような空間。2022年に大分県の別府での展覧会でも展示された《巡る記憶》です。
糸からは水が落ち、丸い波紋を描きながらだんだんと広がっていく水面。その情景は、水面に写す白い糸にも移っているように見えます。生命の源でもあり、循環エネルギーを象徴する水は、人と人との繋がりを感じさせます。
《巡る記憶》2022/2024年
《巡る記憶》2022/2024年
自分の作品は「瞬間哲学」だと話す塩田。目に入った瞬間に自身の作品に対する哲学が伝わり、その後作品への興味が湧くことで現代美術の面白さを感じて欲しいといいます。
赤い糸による家は、心の奥底でいつも塩田自身と繋がっているのは家である、ということの表現です。
《家から家》2022/2024年
続いては、回転する白いドレスと遠心力で形作られる赤いロープ。塩田の作品には、度々モチーフとしてドレスが登場しますが、自身の第二の皮膚のような存在であるものの、その人本人は不在であり、翻って自身の体が不在であることを示しています。
《多様な現実》2022/2024年
塩田は、今回の展覧会の開催に先がけて「つながる」をキーワードにしたメッセージを募集しました。展覧会のメイン作品である《つながる輪》には、赤い糸でできたキューブ状の空間に、1,500通を超えるテキストを輪を描くように編み込んでいます。
《つながる輪》2024年
《つながる輪》2024年
《他者の自分》は、国際芸術祭「あいち2022」で展示した作品から派生させたもので、ガラスケース内の標本にガラスや糸、針金を使用しています。臓器移植によって他者の存在が自分の中に入りこみ、臓器が自分自身に与える影響について考えさせられたことが、製作のきっかけになったようです。
昨年の11月25日から読売新聞の朝刊で連載されている多和田葉子氏による小説『研修生』の挿絵を担当している塩田。現在も連載中のため、会場に並ぶ挿絵原画は少しずつ増えていき、最終的に361枚の原画が展示される予定です。
《他者の自分》2024年
『作品を作ることが生きがいで、展覧会が大好き。精一杯の力を振り絞って制作した作品ばかりなので、多くの方に見ていただきたい』と語る塩田の作品に対する熱い思いが感じられる展覧会。
大阪中之島美術館は、8月に隣接する国立国際美術館と2階のスロープで繋がり、アクセスも便利になりました。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2024年9月13日 ]
大阪中之島美術館「塩田千春 つながる私(アイ)」会場より 塩田千春