20世紀デンマークを代表する家具デザイナー、ポール・ケアホルム(1929~1980)。素材の特性をいかし、ミニマリズムを極めた数々の家具で高く評価されていますが、日本での知名度はあまり高くありません。
織田憲嗣氏(東海大学名誉教授)のコレクションを中心に、ケアホルムの主要作品を網羅した、日本の美術館では初めての展覧会が、パナソニック汐留美術館で開催中です。
パナソニック汐留美術館「ポール・ケアホルム展」会場入口
デンマーク北部に生まれた、ポール・ケアホルム。父の勧めで木工家具工場に弟子入りし、19歳で木工家具製作のマイスターの資格を取得する一方で、コペンハーゲンの美術工芸学校で工業デザインを学び、新しい材料への関心を高めていきました。
後にケアホルムの代表作例となる《エレメントチェア(PK 25)》は、同校の卒業制作としてデザインされたものです。さらに、2枚の成型合板からなる《PK 0》も学校在学中の最終過程から生まれており、その早熟な才能には驚かされます。
1章「木工と工業デザインの出会い」 一番奥が《エレメントチェア(PK 25)》、その手前が《PK 0》
本展の大きな見せ場が、続くセクション。厳選されたケアホルムの代表的な作品約50点が、黒い空間に浮かび上がるように並びます。
本展は、パリを拠点に世界的に活躍する建築家、田根剛氏(ATTA)と協働して会場を構成されています。実はコレクターの織田氏は、田根氏の大学時代の恩師でもあります。
ケアホルム自身は建築家ではありませんが、ケアホルムの家具は、それ自体がひとつの建築物のような機能美を有しています。実物は重量がありながらも、シンプルで軽量感がある家具など、対極的な特性も見事に融合させています。
2章「家具の建築家」
奥に進むと、現代の建築におけるケアホルムの家具の使用例も紹介。身近なところでは、国立新美術館の館内のベンチとして《PK 80》が使われたりしています。
ケアホルムの家具は、空間のボリュームに負けない造形力と、不特定多数の人々が受け入れることができる、主張しすぎないデザインの双方を有しています。
3章「愛され続ける名作」
パナソニック汐留美術館といえば、フランスの画家、ジョルジュ・ルオーの作品を常設で紹介する「ルオー・ギャラリー」ですが、本展ではここで実際にケアホルムがデザインした椅子に座ることができます。
用意されているのは《PK0》など5脚。開館以来初めての試みで、贅沢な作品を贅沢な椅子で見るという、まさに贅沢な時間をお楽しみいただけます。
「名作椅子で味わうルオー・コレクション」
ポール・ケアホルムが活躍していた1950年代は、デンマークの家具は世界中から注目されていた時代。整理すると、フィン・ユールやハンス・J・ウェグナーらがクラフト的な家具デザインを進める一方、アルネ・ヤコブセンやヴァーナー・パントン、そしてポール・ケアホルムらは工業デザインとしての家具づくりの流れを推進した、といえるでしょう。
デザインに関心がある方なら、必ず抑えておかなければならない北欧の家具。知られざる巨匠といえるポール・ケアホルムも、ぜひこの機会にチェックしておいてください。巡回はなく、パナソニック汐留美術館だけでの開催です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年6月28日 ]