ファッションに関する展覧会といえば、衣服中心と思うのでは。デザインや時代を反映した服を見ながらうっとりしたこともしばしば。そしてその時には必ずアクセサリーが華を添えています。
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本展は、その逆といってもいいのではないでしょうか。主役は「コスチュームジュエリー」。日本で初の試みで、世界をみても例が少ない展覧会が京都で開催されています。
コスチュームジュエリーとは、貴金属や宝石を用いず合金、銀、ガラスや半貴石などで作られたファッションジュエリーのことを指します。
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スキャパレッリ《ネックレス“葉”》デザイン/制作:ジャン・クレモン1937年頃
宝飾品は身分や権力を誇示するものとして身分の高い男性が自身を飾り、妻や娘につけさせるものでしたが、20世紀初頭、ファッションデザイナーのポール・ポワレがそれまで体を締め付けていたコルセットを廃止します。そして自らがデザインした新しいドレスに合うジュエリーが必要と、コスチュームジュエリーを最初に制作した先駆者となります。
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ポール・ポワレ《夜会用マスク、ブレスレット「深海」》(デザイン:ポール・ポワレ 制作:マドレーヌ・パニゾン) 1919年
そのポワレの作品が入口で迎えてくれます。たった一晩のパーティのために、彼の妻のために作ったマスクは、蛸のモチーフ! 細かいビーズからなり、鼻部分にもフィットするようにカーブがつけられています。ブレスレットの大きな青いクリスタルは神秘的な海の一滴といえるでしょう。その夜はきっとこのジュエリーがコミュニケーションツールとなり、時間、空間が華やいだだろうと想像します。
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展示風景
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シャネル《ネックレス“花”モチーフ》(制作:メゾン・グリポワ)1938年 細いワイヤーフレームにガラスを流し込んでつくられた花びら。繊細な作品もシャネルの一面と、展覧会監修者でコスチュームジュエリー研究家の小瀧千佐子さんは教えてくれました。
3章からなる本展。まず1章では、20世紀初頭のモード界を代表する3人のデザイナー、シャネル、ディオール、スキャパレッリの作品を中心に展示しています。3人の活躍をうけ、様々なメゾンがコスチュームジュエリーを手がけるようになり、素材もガラスや樹脂、羽根など自由な発想で表現力を発揮します。自由な発想を肌で感じることのできるジュエリーが2章に並び、3章ではコスチュームジュエリーのアメリカでの広がりを紹介します。大企業によっても大量生産されるようになったジュエリーは、庶民にも広がっていきます。大胆でユニークな作品は心を踊らせてくれます。
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上:リーン・ヴォ―トラン《ブローチ“デモ”》(デザイン/制作:リーン・ヴォートラン)1945年頃 下:リーン・ヴォ―トラン《ブローチ“月の戦車”》(デザイン/制作:リーン・ヴォートラン)1945年頃 かわいい、きれいだけではないデザインのジュエリーたち。その時代を表している。言葉ではない主張
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スキャパレッソ《ブローチ》(デザイン:サルバドール・ダリ)1951年頃
約100年、その間に2つの大戦争をも潜り抜けてきたコスチュームジュエリーにはデザイナーやアーティストのデザイン力、それ以上に揺るがない信念のようなものが宿っています。貴重な約450点の中からぜひお気に入りを見つけてください。
小瀧さんは自分が欲するもの、似合うものを探すことによって「自分自身と対峙することができる」と言います。ジュエリーを通して自分の個性を考え、発見する。一歩踏み込んだ鑑賞をも楽しめる展覧会です。
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ミリアム・ハスケル《ネックレス》(デザイン:フランク・ヘス、制作:ミリアム・ハスケル工房)1940年代 貝殻とシルクコードで作られたユニークなジュエリー アメリカで生産された
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コッポラ・エ・トッポ《ネックレス“葉”モチーフ》(デザイン:リダ・コッポラ/制作:コッポラ・エ・トッポ)1968年 主な素材はビーズ しなやかな強さが漂う
※作品はすべて小瀧千佐子氏蔵および個人蔵
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2024年2月16日 ]
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