豊田市美術館で「帝国ホテル二代目本館100周年 フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」展が始まりました。近代建築がお好きな方なら、一度は彼の名前を聞いたことがあると思います。
会場入口
あまりに有名なので、いまさら説明も不要と思いますが、少しだけおさらいです。フランク・ロイド・ライト(1867-1959)は、アメリカの建築家です。「カウフマン邸(落水荘)」、「グッゲンハイム美術館(ニューヨーク)」などで有名です。日本国内でも「帝国ホテル二代目本館(ライト館)」、「自由学園明日館」、「山邑邸(現・ヨドコウ迎賓館)」などを手がけました。
本展では、フランク・ロイド・ライトが設計した建築だけでなく、彼がデザインした家具や食器などの日用品から近未来的な都市計画まで幅広く紹介します。
それでは、展示室で気になった作品から、数点をご案内します。
はじめは、《クーンリー・プレイハウス幼稚園の窓ガラス》です。中央のデザインは星条旗のようです。いろいろな色彩がちりばめられて、わくわくするデザインです。
《クーンリー・プレイハウス幼稚園の窓ガラス》
当時の子供たちは、この窓から、どのような景色を眺めていたのでしょうか。
窓ガラスの向こう側に《帝国ホテル二代目本館模型》が見えます。 展示された模型は真っ白ですが、展覧会のチラシに1965年頃のホテルの全景がカラーで掲載されています。それを見ると、道路は自動車で混雑し、路面電車も走っていることから、大通りの騒がしさが想像できます。
《帝国ホテル二代目本館模型》
帝国ホテル二代目本館で使用されたテーブルとイスも展示されています。椅子の背もたれは六角形、テーブルの天板は八角形にデザインされ、色合いはとても落ち着いています。六角形の背もたれの椅子は、先行するミッドウェイ・ガーデンズの資料にもみられる特徴です。
帝国ホテル二代目本館のテーブルとイス
池袋にある自由学園明日館も、フランク・ロイド・ライトの手がけた建築です。模型を見ると中庭を囲むように建物が配置され、帝国ホテル二代目本館のデザインに似ているように思います。時間を経た模型の様子から、大切に保存されていることがわかります。
《模型 自由学園》
展示の後半になると、フランク・ロイド・ライトの設計した高層建築がでてきます。それまでの展示が低層建築を中心としていたので、急に都会的な印象が強くなります。設計のみで、実現しなかったものもありますが、彼の上昇志向が見て取れます。
手前に置かれた上部を絞った細長い作品を見て、てっきり壁面にある超高層ビル《マイル・ハイ・イリノイ計画案》の模型かと思ったのですが、その用途を聞いて驚きました。
手前《花入れ》、右奥《マイル・ハイ・イリノイ計画案》
なんと、細長い作品は《花入れ》です。どこに置くにせよ、花を生けるためには踏み台が必要でしょう。また、水を替えるときは周囲にぶつけないよう、慎重に扱わないといけません。それにしても、ユーモラスな作品の配置だと思います。
ユーソニアン住宅の原寸モデル展示コーナーで、この展覧会を監修したケン・タダシ・オオシマ氏と特別アドバイザーのジェニファー・グレイ氏がくつろいでいます。 来場者も、ベンチや椅子に腰かけて、フランク・ロイド・ライトの設計した空間を体験することができます。
会場風景 左からジェニファー・グレイ氏、ケン・タダシ・オオシマ氏
最後に、作品総数は約420点と、通常の展覧会の3倍近い点数なので、鑑賞時間には余裕をもって出かけましょう。
なお、会場内の写真は特別に許可を得て撮影しています。
コレクション展 歿後20年 若林奮
コレクション展では、若林奮が特集されています。 2Fの展示室には、巨大な木製の作品《樹皮と空地-桐の樹》が人のような形に横たえられています。反対側に回ると、木の幹の根元から梢に向かい枝が広がる形に見えます。空洞になった幹の内側を見ると、青色に塗られています。防腐剤の色かと思ったら、インクの色だそうです。数年前にも展示されたようですが、若林の作品とは気づきませんでした。
若林奮 《樹皮と空地-桐の樹》 2002
《所有・雰囲気・振動-草の侵略及び持物についてⅠ-Ⅴ》は、巨大な蓋のように見えますが、何かに似せたものではありません。タイトルから推測して、植物が作品を覆い隠す様子を想像しますが、実際のところ、タイトルは作品の説明でもないのでしょう。
若林奮 手前《所有・雰囲気・振動-草の侵略及び持物についてⅠ-Ⅴ》 1981-1984、壁面《100の羨望》 1967-72
《100の羨望》は、作品点数として101点あるそうです。その話を聞いて、作家の認識と一般人の認識には大なり小なり差異があり、若林は差異の大きい作家だと思っていましたが、わりとおおらかな性格のようです。彼の作品はとても難解ですが、少し、親近感を感じました。
今回、昼間と夕方に《所有・雰囲気・振動-草の侵略及び持物についてⅠ-Ⅴ》を見たのですが、昼間の白い光で見るより、夕方のオレンジの光で見るほうが、作品が柔らかく見えました。さて、あなたはいかがでしょうか。
[ 取材・撮影・文:ひろ.すぎやま / 2023年10月20日 ]
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