脱俗的な振る舞いで知られる中国の伝説的な人物、寒山と拾得。唐時代の風狂僧である両者を題材にした絵画は東洋美術の定番で、現在に至るまで数多くの「寒山拾得図」が描かれてきました。
今回、寒山拾得図に挑んだのは、現代美術家の横尾忠則(1936-)です。独自の解釈で描いた全102点を一挙に初公開する展覧会が、東京国立博物館 表慶館で開催中です。
東京国立博物館 表慶館「横尾忠則 寒山百得」展 会場入口
まずは寒山と拾得について。奇妙な笑いを浮かべ、奇行を繰り返したと伝わり、実在の人物であったのかどうかもわかりません。
ただ、その常識にとらわれないという生き方は、仏教、とくに禅の世界では尊崇されるようになり、宋時代にはしばしば絵画化されるようになりました。
東京国立博物館 表慶館「横尾忠則 寒山百得」展 会場風景
展覧会が開催されるきっかけは、東京国立博物館研究員の松嶋雅人氏が横尾のアトリエを訪れたことから。
壁に立てられていた十数点の寒山拾得を見つけて「自然と笑みを浮かべている自身の表情に気づき」(展覧会図録から)、その感覚を多くの人に体験してもらいたい、と企画が進みました。
東京国立博物館 表慶館「横尾忠則 寒山百得」展 会場風景
1970年代に曽我蕭白の作品に出会い、その画風に魅了されたという横尾。蕭白も奇抜な画面構成の中に、醜怪な容貌の仙人をしばしば描いています。
横尾は2020年に国立新美術館で開催された「古典×現代2020 ― 時空を超える日本のアート」で寒山拾得をモチーフにした作品を発表。その時は、蕭白の作品とともに展示されました。
東京国立博物館 表慶館「横尾忠則 寒山百得」展 会場風景
各作品には署名はなく、年月日が記されているだけ。実在や架空の人物、過去の絵画、時事的な出来事など、さまざまなものがモチーフになっています。
一年ほどで102点の作品を描きあげた横尾。1日に3点制作したこともあるという驚異的なスピードです。
東京国立博物館 表慶館「横尾忠則 寒山百得」展 会場風景
関連展示として、東京国立博物館の本館特別1室では特集「東京国立博物館の寒山拾得図 ― 伝説の風狂僧への憧れ ―」も開催中です(11/5まで)。
東京国立博物館が誇る、中国、日本で描かれた「寒山拾得図」を一堂に集め、人々がどのようにその世界観を見てきたか考えていきます。
東京国立博物館 特集「東京国立博物館の寒山拾得図 ― 伝説の風狂僧への憧れ ―」 会場風景
作者である横尾自身は、102点の寒山拾得を「自由に見てもらいたい」と言っています。
本来、絵画は考えるものではなく、感じるものです。自らの感覚で、好きな作品を探しながら鑑賞してください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年9月11日 ]