《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》2007 テート
20世紀の現代美術を代表する画家の一人、デイヴィッド・ホックニーの展覧会が東京都現代美術館で開幕しました。ホックニーは、本展が始まる1週間ほど前に86歳になったばかり。誕生日当日にはSNSなどでホックニーの写真が多く見られ、中にはチェックのスーツに黄色いクロックスを履いているものもあり、チャーミングな姿が一層この展覧会への期待につながりました。
左:《自画像、2021年12月10日》2021 右:《ジャン=ピエール・ゴンサルヴェス・デ・リマⅡ》2018 2点とも作家蔵
日本でホックニー展が開催されるのは、27年ぶり。初期の作品から2020年以降のiPadを使って描いた作品まで約120点を通して彼の画業を見渡すことができます。
左:《花瓶と花》1969 東京都現代美術館 右:《No.118、2020年3月16日「春の到来 ノルマンディー 2020年」より》2020 作家蔵
8章立ての本展の第1章「春が来ることを忘れないで」では2枚の作品、1969年のエッチング《花瓶と花》と、2020年iPadで描いた《No.118、2020年3月16日「春の到来 ノルマンディー 2020年」より》が展示されています。
ホックニーは、多岐にわたる技法、画材で制作してきた反面、対象物は一貫して目の前にある身近なもの、友人、スタジオ風景など同じモチーフを何度も描いてきました。1つの題材「ラッパ水仙」を描いた全く違う作風の2点は、そのことを明快に教えてくれます。
左:《スプリンクラー》1967 東京都現代美術館 右:《ビバリーヒルズのシャワーを浴びる男》1964 テート
《クラーク夫妻とパーシー》1970-71 テート
2章以降は、おおまかに時系列に作品が並べられています。
1960年制作の《イリュージョニズム風のティー・ペインティング》、ロスに移住し、光や水の動きを追求した《スプリンクラー》やふたりの人物で画面を構成した「ダブル・ポートレート」シリーズなど。
ほぼ等身大で描かれた《クラーク夫妻とパーシー》に描かれている男性の頭部だけで12回も書き直したとか。目の前にいる人物を緻密に描くことで絵画制作の原点に立ち返ろうとしていたという解説がよくわかる作品です。
《スタジオにて、2017年12月》2017 テート ホックニーが「見る」ということを探求していたことがよくわかる作品
《ノルマンディの12か月》
作家蔵
《ノルマンディの12か月》
作家蔵
その時代時代の代表作が並んでいて、全てがみどころと言っても過言ではありませんが、なんといっても最後の作品、大作《ノルマンディの12か月》
は圧巻です。この作品は、1年間戸外で描いた220点もの中から選んで切れ目なく全長90メートルという長さに構成しています。
そしてiPadでのドローイング。 しかし作品に沿って歩いていると画材云々など絵自体に付随する情報は頭の中から薄れていきます。見るというよりは、ノルマンディーの小道を歩いているよう。一枚の長い絵画ではなく、パタパタを画面が開き、絵画の中に入り込んでいくような不思議な感覚です。
ホックニーがみた世界を通して、私たちは自然の美しさ、壮大さ、生命力を改めて感じていきます。「見る」「描く」ことを徹底的に探求したホックニーだからこその作品といえます。これはぜひ実際にみて体感していただきたい!
《龍安寺の石庭を歩く 1983年2月、京都》1983 東京都現代美術館
「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景 壁一面に肖像画
本展の公式インタビュー動画で、ホックニーは「楽しむことがメインテーマ」と話しています。楽しむために現実をしっかりみなければならないという彼の言葉は、絵を描くためだけではなく、この世界に生きる一人一人への言葉だと受け止めます。
「春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルゲート 2011年」シリーズ 左から《12月18日》《12月29日№1》《12月29日 №2》《1月2日》 すべてディヴィッド・ホックニー財団
※写真はすべて:「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023年 © David Hockney
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2023年7月14日 ]
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