動物を樟(くすのき)で彫り、油絵具で彩色する「ANIMALS(アニマルズ)」シリーズで知られる三沢厚彦(1961-)。動物のリアリティを追求していく革新的な造形は高く評価され、全国各地で展覧会が開催されています。
美術館の建物全体を使い、1990年代の初期未発表作から最新作まで200点を超える彫刻と絵画を紹介する展覧会が、千葉市美術館で開催中です。
千葉市美術館「三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions」会場入口
三沢厚彦は京都府生まれ。幼い頃から仏像や寺社に親しむなかで、自然に彫刻の魅力に惹かれていきました。
東京藝術大学に進み、同大学院美術研究科修士課程彫刻専攻を修了。動物の姿を等身大で掘った木彫「ANIMALS」シリーズは、2000年から始まりました。
(手前)《Animal 2016-01》2016年
「木を彫りたい」という思いで、硬さや彫り味が良い樟を素材にしている「ANIMALS」。
木の丸太からチェーンソーと鑿(のみ)で彫り出され、大きな作品は「寄木造り」で制作されています。
《Animal 2013-01》2013年
「ANIMALS」シリーズの中でも、代表的なモチーフといえるのがクマです。
クマは童話やアニメでは愛くるしく人気がある一方で、実際には人を襲いかねない猛獣です。人がクマに抱く二律背反の思い。三沢は、その差異の境界線に興味を感じています。
千葉市美術館「三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions」展示風景
下のフロアに進むと、1990年代に制作された初期の作品が展示されています。
90年代前半には様々なものを組み合わせる「アッサンブラージュ」の手法で制作を進めていた三沢。印象こそ異なりますが、台座や棚と彫刻の問題は、「ANIMALS」での作品と空間の関係に繋がっています。
(左から)《彫刻家の棚(画家へのオマージュ)》1993年 / 《彫刻家の棚(彫刻家へのオマージュ)》1993年
このフロアには「中庭部屋」と名付けられた制作室も設けられました。
ここで会期中に、三沢が新作の制作や自身の作品の補修などを行うため、会場は変化し続けます。そのため、2回目以降の観覧料が半額になるリピーター割引も設定されました。
千葉市美術館「三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions」展示風景「中庭部屋」
三沢は「ANIMALS」シリーズで、実在する動物だけでなく、ユニコーンやペガサス、フェニックス、麒麟など、空想上の動物も数多く制作してきました。
最後の展示室では、暗い空間にさまざまな動物があわさったキメラの像が浮かび上がります。
(右手前)《Animal 2020-03》2020年
二本脚で立ちあがるキメラは最新作で、本展で初公開。
それぞれ違う意思を持った動物が共存する姿は、三沢が見据える都市や人間社会の姿とも重なっています。
《Animal 2023-01》2023年
今回の展覧会は企画展示室だけでなく、館内各所に作品があるのも特徴的です。
展示されているのは、企画展示室の前のロビーをはじめ、1階の「さや堂ホール」、エレベーターホールなど。
少し見つけにくい作品もありますので、作品マップを片手に探してみてください。
《Animal 2009-02B》2009年
三沢が生まれ育った京都に、大谷幸夫の設計で1966年に竣工したのが国立京都国際会館です。小学生時代の三沢は遠足で訪れ、その先進的な建築に衝撃を受けたといいます。
実は、千葉市美術館を設計したのも大谷幸夫です。「現在この歳になり(今年で62歳)、大谷建築と再会するのもなにやら不思議な縁だ」と語り、千葉市美術館ならではの構成になりました。
会期中盤の7月14日(金)からは、美術館4階のつくりかけラボでも「三沢厚彦|コネクションズ 空洞をうめる」がスタート。千葉の街から着想を得たプロジェクトが行われます(10月15日(日)まで)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年6月9日 ]