さまざまな製品が生まれては消えていく現代社会。時代に応じてデザインも変化しますが、根源的な魅力と影響力をそなえ、そのエッセンスが受け継がれていくものもあります。
デザインの参照点であり、すべての端緒となる存在を「The Original」と定義し、それらをたどっていく展覧会が、21_21 DESIGN SIGHTで開催中です。
21_21 DESIGN SIGHT「The Original」会場入口
では、年代順に「The Original」をご紹介していきましょう。現在の暮らしに通じるデザインは、19世紀の産業革命から。ものづくりは、手工芸から機械生産へと変化していきました。
1919年には、バウハウスが開校。マルセル・ブロイヤーによる鋼管を曲げた椅子など、斬新なデザインが次々に生み出されました。ブロイヤーは第二次世界大戦後にアメリカに渡り、建築家としても活躍しました。
(左から)マルセル・ブロイヤー《S 32 V》1929 ゲブリューダー トーネット(オーストリア) /マルト・スタム《S 33》1926 ゲブリューダー トーネット(オーストリア)
産業技術が発展すると、工業製品の使いやすさと美しさを追求するインダストリアルデザインが求められるようになりました。また、アメリカの経済的な繁栄により、あらゆる大量生産が不可欠になり、資本主義と消費社会が拡大していきます。
プラスチック製の「レゴ®ブロック」は、1949年に発売されました。組み立てに熟練したビルダーは、このブロックで乗り物や生き物から映画の名場面まで、あらゆるものをつくることができます。
(創業者)オーレ・キアク・クリスチャンセン《レゴ®ブロック》1949 レゴ(デンマーク)
第二次世界大戦後の1950年代は「グッドデザイン」という概念が一般化。各国で顕彰制度が設けられ、よいものを求める消費社会と洗練されたデザインが結びつけられます。
森正洋の《G型しょうゆさし》は、1960年に第1回グッドデザイン賞(Gマーク選定)を受賞しました。もちやすく、垂れにくく、醤油を補充しやすい名作です。
森正洋《G型しょうゆさし》1958 白山陶器
戦後の復興から高度経済成長期を迎えると、新素材の可能性が広がり、製造技術力が向上。かつては実現できなかった造形も、次々と製品化されるようになりました。ドイツとスイスを中心に、理論的な機能主義をベースにしたモダンデザインが広がります。
《USM ハラー》は、スティールチューブ、メタルパネル、ジョイントのボールで構成された、モジュール式システム家具。組み替えや、パーツを加えての拡張が可能で、サステナピリティという言葉が流行するよりもずっと前に生まれた、サステナブルデザインです。
ポール・シェアラー、フリッツ・ハラー《USM ハラー》1969 USM(スイス)
1980年代に入ると、さまざまな領域でポストモダニズムが顕在化していきます。建築では、モダニズムが排除した装飾性や象徴性を取り戻す動きが登場。デザインの分野でも、ポップな色づかいや大胆なモチーフの家具やオブジェが登場しました。
好景気に沸くこの時代に登場したのが、栄養調整食品《カロリーメイト》です。ブロックの10個の穴は、焼き上げる時に均一に火を通すためのもの。カロリー計算がしやすいように、ブロック1本がちょうど100kcalになっています。
プランニング:株式会社大塚製薬 パッケージデザイン:細谷巌《カロリーメイト》1983 大塚製薬
ポストモダンを支えていたバブル経済が崩壊すると、華飾を抑えた造形や、素材本来の手触りを残す加工などへの傾向が強まりました。
吉岡徳仁が《トーフ》で提示したのは、照明器具の形ではなく、光のかたちをつくる仕組みそのもの。2010年にLED化され、光源がブロックに埋め込まれたことで、デザインの純度がさらに高まりました。
吉岡徳仁《トーフ》2000 ヤマギワ
2010年代以降にはスマートフォンも普及し、デジタルコミュニケーションが一般化。人々は自由に発言する手段を手に入れ、ものづくりの分野でも、ポリシーの明確な表明が求められるようになっています。
カラフルなゴミ箱の素材は、FSC(森林管理協議会)認証済みのリサイクル紙です。1枚の紙を折りまげて、スパイラル状の3次元のボックスにしました。紙を折り曲げることで、強度が増します。
クララ・フォン・ツヴァイベルク《ペーパー ペーパー ビン》2020 ヘイ(デンマーク)
不朽の名作デザインが揃った会場。椅子が並ぶエリアを見ると、一見では感じませんが、意外なほど発表時期に差があります。まさに「The Original」だと、改めて実感できました。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年3月1日 ]