人間が自然をいかに捉え、自然のすがた・かたちを表現してきたのか。自然を記述した書物とアートから紐解く展覧会です。
15~19世紀の変化を「つながり」に注目し、年代を追った構成は自然誌、博物学誌を俯瞰することができます。自然はどのように記録されたのか、耳にしたことがある書物を中心に覗いてみましょう。

町田市立国際版画美術館 外観
科学がもたらした変化
中世ヨーロッパでは想像力や神の存在によって自然観が形成されていました。15世紀になると観察による記述が行われます。

1章 想像と現実のあわい 展示風景
ドイツの医師であり牧師、植物学者のエロニムス・ボックは、観察と比較による分類・体系化を行い科学的な視点の芽生えを感じさせます。一方、植物に対する親しみ、想像といった主観も一部に混在していました。

ヒエロニムス・ボック(著)『本蔵書』(ドイツ語)1551年(初版1539年)木版 東京大学大学院理学系研究科附属植物園
学問の専門化が進む中「万能の人」として名を馳せたイエズス会のキルヒャーは、幅広い関心を示します。イエズス会のネットワークから世界の万物がもたらされ、聖書の考証や磁力、中国の自然物や官局、風俗など収録しました。

アタナシウス・キルヒャー(著)
宗教色が強く、伝聞や思想を交えた世界と、自然の仕組みを分析する主観と客観が混在。転換期の象徴な書物です。
17世紀、顕微鏡の普及と銅版画により、さらに精細に描かれます。ロバート・フックのミヤマクロバエの精緻な描写は、対象との向き合い方、考え方を一変させました。知識や想像力で見ることから、直接そのものと向き合うようになります。

ロバート・フック『ミクログラフィア』 1665年刊 エッチング、エングレーヴィング 東京薬科大学
18~19世紀は分ける時代へ
光学機器によって観察された細部の情報を分類したリンネは、植物学の父と称されます。自然の中の秩序を作り出すという新たな視点を持ちました。「種」と「属」で分け、雌雄蕊に着目した分類法です。

カール・フォン・リンネ(著) 『自然の体系』(ラテン語)1748年(初版1735年)エッチング東京大学大学院理学系研究科附属植物園
あらゆる分野に影響を与えたダーウィンの『種の起源』。種の生存、変異、絶滅をサンゴの形成過程をヒントに抽象化しました。自然淘汰説は生物領域だけでなく、神を否定するものとして宗教界にも大きな影響を与えます。

チャールズ・ダーウィン(著)『種の起源』(英語)1859年 リトグラフ 東京薬科大学
自然への関心は海にも注がれます。ヘッケルは生物の造形の美しさを訴求できる角度や配置で描きました。これらはアールヌーヴォーへつながり、建築のモチーフにも利用されます。

エルンスト・ケッヘル『自然の芸術形態』(ドイツ語)1899~1904年 リトグラフ(多色)ポーラ美術館
人を描く
「自然」の対象は動植物や微小生物、モンスター、そして「人」も自然の一部です。描かれた多様な人をいかに表現してきたのか。そこから各時代における人の捉え方が伺え、歴史の一面をあぶり出します。
16世紀、動植物の他に奇怪な自然物が集められました。奇獣とともに新大陸の原住民も見聞によって図解されています。

ウリッセ・アrドロヴァンディ(著)『怪物誌』(ラテン語)1642年 木版 慶応義塾図書館
探検航海で訪れたタスマニア原住民の男女を描いたリトグラフ。ここには西洋人が見る原住民への眼差しが見て取れます。

シュール・デュモン・デュルヴィル(著)『アストロラブ号世界周航記』(フランス語)1833年刊 銅板、リトグラフ、手彩色 武蔵野美術大学 美術館・図書館
「自然」の対象物が変化し広がり、各時代の自然に対する見方や考え方も変化。想像から科学、宗教などが混在しながら分離の方向へ向かいます。しかし、想像はファンタジーとして開花。こうして歴史を一望できる裏には、活字、版画、印刷技術の進化のつながりがあることも感じさせる展覧会です。

4章 自然を詠う―ファンタジー『フローラの神殿』より
[ 取材・撮影・文:コロコロ / 2023年3月17日 ]
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