「アール・ヌーヴォー」「アール・デコ」の時代を築いたガラス工芸品の数々。超絶技巧によるガラスの展覧会が開催されています。エミール・ガレの登場でガラスは芸術品としての価値を高めます。さらに技巧を競い合い様々な作家が作品を生み出しました。
ガレ・ラリック・ティファニー他 「超絶技巧ガラス」展 ポスター
超絶技巧のイメージは、人間業とは思えない緻密な技術です。しかし精巧さだけでなく、作家の思想や哲学を表現するための役割も果たしました。
技巧の解説パネル
エミール・ガレを筆頭に、ステンドグラスのルイス・カムフォート・ティファニー、パート・ド・ベール技法のアルジー・ルソー、アール・デコの先峰、ルネ・ラリックなど、超絶技巧作品が約50点並びます。
超絶技巧のガラス作品
ルネ・ラリック
時代の変化を敏感にキャッチしアール・デコを牽引したラリック。富裕層の心を巧に捉え商業的にも大成功を納めます。量産できる工業技術に希少性を加え、手にしやすい価格帯で人気を博しました。
ルネ・ラリックの作品
宝飾品で培ったデザイン力を武器に、限られた技術を駆使し今でも需要を喚起します。時代のニーズに応え求められる作品を提供し続ける。ガレの時代とは違う発想の超絶技巧と言えます。
ルネ・ラリックの作品
ルイス・カムフォート・ティファニー
ステンドグラス作家として名高いティファニー。途絶えていた技法を再興し、宝石商の父から譲り受けた感性を加えます。アメリカらしい大胆さ、人目をひく華やかさは国民性や「超絶技巧」のお国柄の違いを感じさせます。
ルイス・ティファニー「とんぼ」ランプ 1910年頃
ティファニーが求める植物の自然な色は素材から作る必要がありました。コスト無視の追求によってできた紫陽花ランプです。
ルイス・ティファニー「紫陽花」ランプ 1910年頃
アルジー・ルソー
古代ローマ時代に失われたパート・ド・ベール技法が復元され、ルソーは独自の手法を加えます。ガラスを粉にし糊を加えたものを、内型・外型の間に詰めて焼成する基本技法に、歯科技工の経験を活かし、遠心分離機で成型。唯一無二の技法に昇華させました。
アンジー・ルソーのランプ
エミール・ガレ
みらい美術館の代表作「フランスの薔薇」大壺は、死の2年前の作品。故郷の固有種ガリアの薔薇が朽ちてゆく過程を表現し、自身の体調の衰えを投影しました。蕾もどこか儚げで、日本の侘び・さびや輪廻、生命観が伝わってきます。
「フランスの薔薇」大壺 1902年
細部に渡り手抜きのない技術。その背後で幾多の失敗を積み上げながら、頂点を極めた作品です。ガレから挑戦状のようなメッセージをつきつけられているように感じられます。
自分の死までもデザインし、永遠の命を作品の中に封じ込める。超絶技巧を媒介に全精力を注ぎ、ガレの生きた証を刻みました。そんな精神性が伝わってきます。
薔薇の蕾に背景の光が注がれ透明な輝きを放ちます
ガレの死後、妻が中心となり制作された工房作品。経営と技術、表現と採算バランスが求められる時代に、可能な限りの超絶技巧が追求されました。時代背景は、超絶技巧の考え方も変化させます。
カラリリー文 スフレ花器 1925年頃 同じ型でも技術の違いが見られます
超絶技巧は様々な視点から見ることができます。技術の裏にある哲学、国や時代で追求の方向も変わります。技巧に着目することで作家に内在するマインドを探ってみませんか?
[ 取材・撮影・文:コロコロ / 2023年2月3日 ]
読者レポーター募集中!あなたの目線でミュージアムや展覧会をレポートしてみませんか?