近年、特に人気を集めている染色家・柚木沙弥郎。創作活動は70年を超え、これまで国内外で数多くの個展も開催されてきました。2018年に同館で開催された「柚木沙弥郎の染色 もようと色彩」展以来、5年ぶりとなる柚木沙弥郎を紹介する展覧会が、日本民藝館で開催中です。
日本民藝館
柚木沙弥郎は、1922年生まれ。大原美術館に勤務していた20代の頃、柳宗悦の思想と芹沢銈介作品との出会いから染色の道に進みます。 これまで染色を中心に版画や絵本、立体作品などを通して様々な表現を行ってきた柚木。昨年の10月に100歳を迎えた今なお、創作意欲は衰えを知りません。
作者寄贈による代表作60点を含む、約140点を超える柚木作品を収蔵している日本民藝館。約110点の作品が並ぶ今回の展覧会でも、玄関の空間から早速、柚木作品の世界観に浸かることができます。
日本民藝館 入口
日本民藝館 1階展示室
会場には、日本民藝館ゆかりの作品も並んでいます。1階の展示室には、日本民藝館で実際に使っていた唐草文様のカーテンを紹介。日本民藝館の創設者である柳から依頼を受け、1950年頃に初めて制作をしたカーテンは、生地の傷みはあるものの、作品のもつ生命力を感じられます。
(左)型染唐草文カーテン・日本民藝館用(部分) 1950年頃
2階のスペースには染色家を志して間もない頃の、柚木の記念すべき初作も展示されています。
沖縄の紅型の模様の美しさに影響を受けて制作された型染布は、柚木が柳のもとに持参し直接批評を依頼したもの。蒐集には妥協を許さなかった柳ですが、日本民藝館へ収めたことからも、柚木の才能が認められたと言える作品です。
紅型風型染布(部分) 1948年
今回の展覧会で特に見どころとなるのは、2階の大展示室です。アフリカンのマスクや縄文時代の土偶、ペルーや朝鮮半島など、時代や産地、手法の異なる工芸品やプリミティブな造形が柚木作品とコラボレーションをしています。
日本民藝館 2階 大展示室
古作と現代作品とのコラボレーションをおこなったのは、柚木作品が初めてのことだと本展担当者の月森俊文さんは話します。柳たちが蒐集した美しい古作との併陳は、日本民藝館ならではと言えます。それらの作品と柚木作品が融合できるのは、作品のもつ性質の近さだと考えているそうです。
日本民藝館 2階 大展示室
展示室の中央には2つのダイニングテーブルが並んでいます。ヨーロッパの陶器と柚木の染色をテーブルクロスのイメージであしらえています。
民藝の多くは自然に根差してうまれていますが、柚木は横断歩道やパーキングの線、宅急便の伝票など人間によってつくった物質から作品の発想を主に得ていたと語っています。
無垢で濁りのない作品から訴えてくる力は、普通の作家以上にあるのかもしれない。柚木作品の根強い人気は可愛らしさだけでなく、鑑賞者がプリミティブなものに似た力を感じ、知らず知らずに感銘を受けているのではないか。来館された方にもその魅力を味わって確認していただきたいと、月森さんは話しています。
日本民藝館 2階 大展示室
2018年に開催された展覧会では、記念講演会も行われました。日本民藝館についてや師・柳宗悦、芹沢銈介についても言及されたこの映像は、展覧会の開催期間(4月3日)までオンライン配信されています。展示と合わせて、柚木沙弥郎の魅力を深めることができそうです。
日本民藝館
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2023年2月2日 ]