1980年代初めにデビューして以来、絵画、版画、素描、彫刻、インスタレーション、デザイン、映像、絵本、音、エッセイなど、ありとあらゆる表現方法で創作をつづけている大竹伸朗(1955-)。
2006年に東京都現代美術館で開催された「全景 1955-2006」以来、16年ぶりとなる大規模な展覧会が、東京国立近代美術館で開催中です。
大竹伸朗氏 建物のテラスに設置されているのは、《宇和島駅》1997年
会場は7つのテーマで構成。時代順ではなく、ゆるやかにつながるテーマで、会場全体が大竹の作品世界に包まれます。
まずは「自/他」。「何もないところから何かをつくり出すことに昔から興味がなかった」という大竹。その創作は「既にそこにあるもの」からスタートします。
ここでは9歳の頃の作品から、2012年にドイツのドクメンタ13で発表された大作《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》などが並びます。
「自/他」の展示風景 手前と中央は《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》2012年
続いて「記憶」。たわいもない印刷物やゴミのようなものまで、ありとあらゆるものを貼り付け、作品にとどめていく大竹。
忘却に抗い、物質に刻まれた記憶の可能性を問いかけるかのようです。
「記憶」の展示風景
次は「時間」。このセクションでは、30年もの時間をかけて変化した素材を用いた作品や、逆に30分間という制限を設けて、全く無計画に描きあげた作品もあります。
大竹にとって、時間は他の物質とならぶ素材のひとつです。
「時間」の展示風景
「移行」のセクションには、大竹が世界各地や日本の津々浦々で集めたローカルな図像が現れます。
「移行」は大竹自身の身体的な移動とともに、制作方法でもあります。元々あった場所から、何かを移転させることで成立する大竹の作品。美術館のテラスに設置されている《宇和島駅》(1997年)は、その代表といえます。
「移行」の展示風景
次は「夢/網膜」。露光ミスのために捨てられたポラロイドの写真が、当時、大竹が漠然と思い描いていたイメージを「あまりに忠実に再現している」ことを発見し、その上に樹脂をのせました。
樹脂の質感と写真の色彩はそれぞれ独立していますが、見る者の網膜の上で混ざり合い、作品になっていくのです。
「夢/網膜」の展示風景
「層」のセクションでは、印刷製本技術の粋を凝らした豪華本と、既製の印刷物のカラーコピーを編集して綴じた手製本が展示されています。
物質の寄せ集めと切り貼りは、大竹の制作の基本です。積み重ねることで厚みと重さを持ち、「層」をつくっていきます。
「層」の展示風景
最後の「音」のセクションのみ、2Fのギャラリー4で展開されています。大竹は武蔵野美術大学在学中に、山下洋輔トリオの『モントルー・アフターグロウ』に触発され、ノイズ・ユニット「JUKE/19.」を結成。画家としての個展より先に、アルバムも出しています。
このセクションには、ステージそのものを作品にした《ダブ平&ニューシャネル》(1999年、公益財団法人 福武財団)など、音にまつわる作品が並びます。
「音」の展示風景 《ダブ平&ニューシャネル》(ステージ)1999年 公益財団法人 福武財団
約500点の作品が空間を埋め尽くす展覧会そのものも圧倒的ですが、特筆したいのが展覧会のカタログ。「新聞フォーマット3冊(各16ページ)、B全シート1枚(16面)、パノラマシート3冊(各8ページ)、冊子1冊(128ページ)」という前代未聞の構成です。広い部屋がないと読みにくいかもしれませんが、大竹ファンなら必携です。
展覧会は東京展の後、愛媛、富山に巡回します。会場と会期はこちらです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫、坂入美彩子 / 2022年10月31日 ]