「アンディ・ウォーホル・キョウト」展がついに開幕しました。
彼の出身地ピッツバーグにあるアンディ・ウォーホル美術館所蔵品から選りすぐりの200点と映像作品15点が来日。そのうち100点以上が日本初公開です。門外不出の《三つのマリリン》など貴重で珍しい作品が並ぶ本展はウォーホルを深く知る絶好の機会です。商業イラストレーター時代から晩年にいたるまで、彼の人生を辿る大回顧展です。
本展キュレーター ホセ・カルロス・ディアズ(元・アンディ・ウォーホル美術館主任学芸員)
みどころの1つは、第2章「ウォーホルと日本そして京都」。1956年(28歳)夏、イラストレーターとして働いていたウォーホルは、「自分へのご褒美」に世界1周の旅に乗り出します。
2週間の京都滞在で、彼はひたすらスケッチしていたそう。清水寺、舞妓などを描いたものが展示されています。また旅の同行者チャールズ・リザンビーが撮影した写真も併せて初公開されていて、2人の旅の様子が感じられます。
展示風景 京都でのスケッチなど
ホテルのパンフレット、絵ハガキ、旅程表などもきれいに残されていて、ウォーホルが日本に魅了されたことがわかります。日本人としてはちょっと嬉しくなります。きっと彼も天国から懐かしく見ているかも。京都からアメリカの母親に送った絵ハガキもあり、彼の人間的な部分にも触れることもできます。
展示風景 日本の生け花に影響をうけた作品《花(手彩色)》1974年
1974年に再び京都を訪れたときには、特に「生け花」に影響を受け、多くの生け花に関する書籍も収集していました。それらの図版をもとに制作された《花》。色を付ける際、イラストレーター時代のスタイルで1つ1つ手彩色しているのも興味深いところです。
第3章「ポップ・アーティスト」ウォーホルの誕生 展示風景 坂本龍一やシルベスター・スタローンの肖像画。壁紙にも注目
まさに「ウォーホル」といえる作品たち
展示の中盤には、よく知られるウォーホルの作品がずらりと並んでいます。ブリロ箱、キャンベルスープに有名人の肖像画シリーズ。まさに“ウォーホル”です。
本展のメインビジュアルになっている《三つのマリリン》は日本初公開。マリリン・モンローの悲劇的な死に触発され、彼は50点もの彼女の肖像画を制作しています。アンディ・ウォーホル美術館パトリック・ムーア館長は「特に《三つのマリリン》には、美の中に陰りやグロテスクさが表現されている。多数あるマリリン作品と比べてみてほしい。」と教えてくれます。
第5章「光と影」展示風景
第5章「光と影」展示風景
ウォーホルが具象だけでなく、抽象的な作品にも力を注いでいたことは大きな発見でした。
版画《影》シリーズに近づいてみてください。表面にはキラキラとダイヤモンドの粉が散らされています。表面の輝きとタイトルの《影》。影が光るという表現に意表を突かれました。影と光は表裏一体であると表現しているのでしょうか。自分の人生を彼自身がそう感じているのか……。足がとまる作品でした。
第5章「光と影」展示風景 大きな作品は《カモフラージュ》
展示風景 《最後の晩餐》が展覧会を締めくくる
約295×約990㎝の大型作品《最後の晩餐》も日本初公開。1984年から2年間で100点以上制作されたシリーズの1点です。キリストの救済が主題となっていて、「人間の生きる世界は儚く移りゆくものである」ことが描かれています。ダ・ヴィンチのフレスコ画《最後の晩餐》を参照していますが、複製画の伝統にとらわれず、カラフルでロゴや記号が溢れている点に彼らしさを感じます。
真ん中の「The BIG C」は新聞の見出し『ビックC:ガン治療に効く心構え』から取られたもの。「C」はキリスト(Christ)とガン(cancer)の頭文字で言葉遊びをしています。同性者の間でエイズによるガンが広まっている時期で、ウォーホルの死への恐怖が示唆されてもいます。
有名になったウォーホルは秘密主義者として素性はベールに包まれていたのですが、晩年この作品を通してビザンティン・カトリック信者であったことなど、彼のバックグラウンドを明らかにしていきます。
展示風景 《ダブル・エルヴィス》も展示
本展キュレーターのホセ・カルロス・ディアズさん(元・アンディ・ウォーホル美術館主任学芸員)は本展を通して「誰もが知っているウォーホルと、パーソナルな部分を含め、あまり知られていない側面の両面を知ってほしい。」と話します。展覧会のタイトルに「キョウト」がつくように、ウォーホルと京都、日本との関りを知ることができたことも驚きと喜びです。
アンディ・ウォーホル美術館館長 パトリック・ムーアさん
どれもほしくなって困りました。ミュージアムショップ
展示風景 手前の作品は、日本初公開《ツナ缶の惨事》1963年
三十三間堂ではウォーホルのスケッチや、カメラマン原榮三郎が撮影したウォーホルの写真など公開されているほか、京都駅や清水寺など、実際に彼が訪れた場所での無料音声ガイドサービスなどの特別企画も開催中。京都市はまさにウォーホル一色で華やいでいます。
展覧会 開会式の様子
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2022年9月16日 ]
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