泉屋博古館東京のリニューアルオープンを記念した展覧会のパート3。今回は東洋美術に焦点を当て、国宝2件・重要文化財10件を含む数々の名品を展観します。
泉屋博古館東京「古美術逍遙 ―東洋へのまなざし」
展覧会は4章構成で、第1章は「中国絵画 ─ 気は熟した」。主に住友コレクションの中国書画は、住友春翠と寛一という、個性の異なる二人の手によって蒐集されました。
春翠が集めた中国書画は、クラシカルで気品のある画面。煎茶会でかけるための明清書画や、茶の湯で唐物として尊ばれた南宋絵画など、近代の数寄者同士の交流の上では必要とされた書画が中心です。
第3展示室で紹介されている国宝《秋野牧牛図》は、いわゆる東山御物です。村田珠光らを経て、住友春翠の手に渡りました。
国宝 伝 閻次平《秋野牧牛図》南宋時代 13世紀
春翠の長男である寛一は、はじめは近代西洋の芸術を愛好していましたが、やがて東洋美術、特に文人画に傾倒していきました。伝統に縛られない個性的な画風をつくりあげた画家たちに魅了され、八大山人や石濤らの作品を収集しました。
重要文化財 石濤《盧山観瀑図》清時代 17~18世紀
第2章は「仏教美術 ─ かたちの彼岸」。泉屋博古館の仏教美術は数こそ多くありませんが、地域的な広がりを持つのが特徴です。
中心となるのが、金銅仏。青銅器の蒐集で培った、住友春翠の中国の金属工芸に対する審美眼が発揮されています。
重要文化財《弥勒仏立像》北魏時代 太和22年(498)
国宝《線刻仏諸尊鏡像》は、日本で制作された鏡像です。9体の諸尊を表した線刻は実に細やかで、その素材が金属であることを忘れさせるほどです。
鏡面のため、反射光が当たると見えにくくなります。会場では少しかがんで、見上げるように鑑賞するのがおすすめです。
国宝《線刻仏諸尊鏡像》平安時代 12世紀
第3章は「日本美術 ─ 数寄あらば」。住友コレクションには、様々なジャンルの日本の絵画・書が残されています。
水墨画は、墨による黒色の濃淡だけで、移り変わる世界の一瞬を描きます。そのシンプルさは緊張感を生み、かけられた場の空気を引き締めます。
雪舟《漁樵問答図》室町時代 15世紀
一方で、鮮やかな彩色と緻密な描写が目をひく大画面の掛幅や屏風は、大広間をもてなしの場へと変貌させます。
《海棠目白図》は、枝に九羽のメジロが。「目白押し」の語源通り、身を寄せ合うメジロを描いたのは、鳥を愛した若冲ならではの観察眼です。
伊藤若冲《海棠目白図》江戸時代 18世紀
最後の第4章は「文房具と煎茶 ─ 清風は吹く」。文房とは書斎のこと。文房で使う道具(文房具)には、主の美意識が強く反映されます。
中国の文人たちは、書画制作に必須の文房四宝(筆、硯、墨、紙)をはじめ、自然の偉大な気を宿す石に瓶花、先人の美意識と技術の結晶である青銅器、清風を生む煎茶なども、次々に文房に取り入れていきました。
《粉彩百鹿図牛頭尊》清時代 18世紀
本展では煎茶会のしつらえをイメージして展示。かつて、文房という空間でどのように芸術が鑑賞されていたのかが理解できます。
第4章「文房具と煎茶 ─ 清風は吹く」展示風景
3,500件以上の作品を収蔵している泉屋博古館では、そのなかから99件の名品を厳選した『泉屋博古館 名品選99』を刊行しています。
本展では、そのうち49件が出展。さらに仏教美術は、東京では初出展となる作品もあります。お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年9月9日 ]