山王美術館と聞いて“知っています”という方はまだ少ないかと思います。なんばの ホテル一角にあった隠れ家的美術館が待望の独立館として京橋OBPの地に移転し、このたび2022年9月2日の開館記念展を迎えました。
山王美術館外観
オープンを迎え多くの美術ファンを待つ記念展
ホテルモントレ株式会社の創立者のコレクションは600点を超え、さらに新収蔵品が追加されてゆく中、静寂の空間でゆっくり名画と対面できる場所ができたことはとても嬉しいことです。特筆すべきなのは、すべて館所蔵であることはもちろんのこと、今まで他館に貸出されていない作品ばかりだということです。更に初公開の作品や新コレクションが並んでおり、とにかく初めて出会う・ここでしか観れない作品が多いのです。
まずは5F「近代日本画」の部屋を拝見します。明治維新以降、伝統的な日本の絵画も、西洋絵画の影響を受けつつ日本独特の感性と融合し試行錯誤が繰り返されます。いくつもの転換期を重ねた明治・大正・昭和の時代を代表する画家の作品群が鑑賞できます。
東山魁夷、杉山寧などいわゆる日本の美を象徴するテーマにモダンな構図や配色など西洋画の影響を垣間見ることができます。保存状態が抜群で繊細な筆遣いや画材色彩そのままが維持されているものと思えます。
5F「近代日本画」の展示風景 上村松園 《美人納涼図》 1916-1926頃 小林古径 《琴》 1929年 など
次に4F「近代フランス絵画」の部屋です。
バルビゾン派からエコール・ド・パリまで、19世紀から20世紀にかけてのフランス近代絵画の変遷が理解できるセレクションです。ルノワールを代表する画題といえば裸婦像ですが、とても艶のある肌色感に目を見張ります。モネ作の子どもを描いた作品やエコール・ド・パリで活躍した藤田嗣治の《花》などとても興味深く新鮮に感じるものばかりです。
4F「近代フランス絵画」の展示風景 ピエール=オーギュスト・ルノワール《果物をもった横たわる裸婦》1888年頃 《裸婦》1918年 クロード・モネ《オシュデ家の四人の子どもたち》1880年代初頭
初公開 アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 《タピエ嬢》 1882年
最後は3F「日本近代洋画の成立をめざして」がテーマです。 明治維新以降、政府の政策による美術教育の推進に尽力した巨匠たちの作品が並びます。系統立つ流れとそこから一歩踏み出す才能は日本における美術界の大きな発展につながりました。
黒田清輝の《夏(野遊び)》は1895年明治美術会秋期展に出品後長らく所在不明とされていた作品ですが、山王美術館のコレクションに加わり、127年ぶりの公開となるそうです。
3F「近代日本洋画」展示風景 黒田清輝 初公開 《夏(野遊び)》 1892年 金山平三 《花》 1926年頃
岸田劉生 左から 《お手玉》1924年頃 初公開 《麗子肖像》1920年
佐伯祐三《パリの街角》1925年
館は5階建て、上層3フロアが展示室です。とにかく各部屋がゆったりしていて、近づいて鑑賞、一歩離れて鑑賞、もう一度好きな絵を鑑賞・・など自由に楽しめる贅沢さがあります。五感が満足する至福の時間が過ぎてゆきます。1Fのミュージアムショップは自由に利用可能。ロビーや休憩スペースなど展示室外にもアート作品が設置されていたり、とても特徴的な螺旋階段にも心奪われます。
2023年の春にはファンの多い藤田嗣治にスポットをあてた展覧会が予定されています。
四季の表情が窓からの風景 ミュージアムショップ
京橋OBPはビジネスの街ですが、すぐ目の前には大阪城、そして先日リニューアルの「藤田美術館」も徒歩圏内にあり、一挙に文化芸術の一面も突出してきました。あの画家のあんな作品初めて観たわ~なんて思い出しながら今日も珈琲ブレイクで締めくくりました。
ビジネスの街 ツインタワーの「上島珈琲」でひといき
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2022年9月1日 ]
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