【松代エリア】
川西エリアの南西側にあるエリアで、ここも作品が多い場所。北越急行ほくほく線のまつだい駅すぐ近くに、まつだい雪国農耕文化村センター「農舞台」があります。
「農舞台」の外構にある《廻転する不在》は、ひとめ見たら試してみたくなる、インパクトの強い作品。作者は東京藝術大学大学院の博士課程に在学中の東弘一郎、旺盛な活動で急激に注目を集めています。
東弘一郎《廻転する不在》
「農舞台」の中にあるレストラン《カフェ・ルフレ》は、水色の空間自体がアート作品です。テーブルは鏡になっており、松代の風景が映り込みます。
一面ガラス貼りの窓からは、棚田の風景も楽しめます。
ジャン=リュック・ヴィルムート《カフェ・ルフレ》
その《カフェ・ルフレ》でいただいたのが「里山ビュッフェ」。顔がわかる生産者が育てた新鮮な野菜や、越後妻有の山菜をたっぷり使い、郷土の味や家庭料理にアレンジを加えた惣菜が並びます。
早めの時間に入ったのですんなり食べられましたが、出る頃には行列ができていました。
「里山ビュッフェ」1,700円 ※ドリンクは別売り
松代城には、今回からアート作品が設置されました。駐車場から徒歩で坂をかなり上るため心が折れそうになりますが、1〜3階のすべてが見どころなので、ここは絶対に見逃せません。
1階を手がけたのは、幾何学的な記号とグリッドで構成された作品を得意にする、イタリアのエステル・ストッカー。シンプルながら個性の強い空間インスタレーションです。
エステル・ストッカー《憧れの眺望》
2階は、銀箔を施した空間の中に佇む、金の茶室。周囲の外側はぐるっと回れるようになっており、様々な絵図が描かれた茶室の内部を覗くことができます。
作家の豊福亮は、芸術祭を中心に数々の作品を展開しています。
豊福亮《樂聚第》
3階は鞍掛純一+日本大学藝術学部彫刻コース有志の作品。床全体が彫刻刀で彫りつくされ、中央には金箔の貼られた礼盤が鎮座しています。
礼盤には上っても良いので、中央に座って、四方に開かれた丸窓から風景をお楽しみください。
鞍掛純一+日本大学藝術学部彫刻コース有志《脱皮する時》
2000年に大地の芸術祭が開幕して以来、長きに渡って芸術祭に関わっているのがイリヤ&エミリア・カバコフです。今回もいくつかの作品を出展しています。
《手をたずさえる塔》は、人々のつながりを表した塔。塔上のモニュメントは、問題が生じたとき、良いニュースがあったときなどによって、色が変わります。
イリヤ&エミリア・カバコフ《手をたずさえる塔》
塔の中に入ると、小さな帆船の模型が。カバコフがデザインした船の上に、世界中の子供たちの絵を組み合わせて帆をつくり海に浮かべるプロジェクトで、その模型展示となります。
帆は、民族や社会的背景の異なる数百人の各国の小学生が描いた絵を縫い合わせたもの。寛容さと希望のメッセージを伝えています。
イリヤ&エミリア・カバコフ《手をたずさえる船》
松代エリアでもうひとつ紹介したいのがこちら。外観は普通の古民家ですが、一歩足を踏み入れるとド派手な空間。世界中の日用品や工業品などさまざまなパーツが金色に塗装された、黄金の遊戯場です。
奥にはインベーダーゲームなどの懐かしの筐体もあり、鑑賞者が遊ぶこともできます。こちらも、松代城の2階を担当した豊福亮の作品です。
豊福亮《黄金の遊戯場》
松代でいただいたランチは、とれたての野菜を使ったカオマンガイ。川俣正の作品を展示している妻有アーカイブセンター内のカフェ&ショップ「Café Fragment by edition.nord+がふ」で提供しています。さっぱりとした味わいが、歩き疲れた身体を癒してくれました。
室内では鳥取の古道具屋「がふ」が集めたユニークな品々も展示販売されています。
「カオマンガイ」900円
【松之山エリア】
松之山温泉を中心としたエリア。この温泉は有馬温泉(兵庫県)、草津温泉(群馬県)とともに、日本三大薬湯とされています。
《森の精》は、2021年に亡くなったボルタンスキーの作品です。越後妻有の人々を写真で写し、目の部分をクローズアップ。スクリーン状の布が森の中に下げられ、周辺の風景と同化しています。
クリスチャン・ボルタンスキー《森の精》
ボルタンスキーの作品は近くの旧東川小学校にもあります。
《最後の教室》は、教室や体育館を使った大規模なインスタレーション。電球や心臓の鼓動など、ボルタンスキーの作品でしばしば見られる手法ですが、その存在感は圧倒的。唯一無二の世界観です。
クリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマン《最後の教室》
クリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマン《最後の教室》
1階から天井裏まで黒い毛糸を縦横無尽に張り巡らせているのは、塩田千春の作品です。
部屋の中には地元の人たちから集めた家具や衣類などがあり、記憶とともに編み込まれているようです。
塩田千春《家の記憶》
このエリアの目玉といえる作品が《夢の家》。過激なパフォーマンスで知られるマリーナ・アブラモヴィッチが、築100年を超える民家を改修したアートプロジェクトで、夢を見ることを目的にした宿泊体験型の作品です。
宿泊は1棟貸しで、4名まで。見学だけなら16時までです。
マリーナ・アブラモヴィッチ《夢の家》
宿泊は、もちろん要予約。「光の館」とは異なり、1グループで1棟貸しになります。17時~18時の間に「三省ハウス」でチェックインし、車で15分ほど離れた《夢の家》へ。
スタッフさんは作品の意図を良く理解している集落の方で、まず宿泊方法についての説明。その後は、鑑賞者だけでの宿泊となります。
館内ではアブラモヴィッチの作品集やDVDが鑑賞できますが、テレビ放送は見られません。キッチンには調理道具や食器、冷蔵庫や電子レンジもあるので、館内で食べる人は、食材や弁当などを用意してからのチェックインする方が良いでしょう。
マリーナ・アブラモヴィッチ《夢の家》館内 卓上のコップはこの空間の広さ(4間✕6間)を示しています
壁面の文字はアブラモヴィッチが書いたメッセージ。黒い表紙の本は「夢の本」で、宿泊者がここで見た夢を綴ったものです。
マリーナ・アブラモヴィッチ《夢の家》館内
体験は、まず入浴から。銅製の風呂がふたつあり、ともに水晶でてきた枕がついています。
風呂に湯をためて、緑色の枕の浴槽から入浴。バスタブが銅製なので、石鹼類は使えません。続いて、青い枕がついた浴槽には、用意されているハーブを入れて入浴します。
バスタオルやドライヤーは用意されています。
マリーナ・アブラモヴィッチ《夢の家》館内
寝る際には、アブラモヴィッチがデザインした赤、青、緑、紫の「夢をみるためのスーツ」から好みの色を選んで(サイズはそれぞれSMLが用意されています)着用。
館の2階にはそれぞれの色の部屋があり、黒曜石の枕がついた箱状のベッドで就寝します。寝心地が良いとは言えませんが「夢をみるため」なので、それも致し方ありません。箱状のベッドには、それぞれ「夢の本」があり、宿泊者は見た夢を本に書き残す、という流れになります。
自らの体験が作品の一部になっていく、とてもユニークなプロジェクト。館内のDVDで見たアブラモヴィッチのパフォーマンスも、強く印象に残りました。どうしても箱の中では寝られない人のために、布団やシーツも用意されています。
マリーナ・アブラモビッチ《夢の家》館内
松代と松之山で見てきた作品も動画にしました。
[ 取材・撮影・文:M.F. / 2022年7月30日~8月7日 ]
→ 越後妻有 大地の芸術祭 2022(レポート その1 十日町・川西)
→ 越後妻有 大地の芸術祭 2022(レポート その2 松代・松之山)
→ 越後妻有 大地の芸術祭 2022(レポート その3 中里・津南)
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