2000年から始まり、今年で8回目となる越後妻有 大地の芸術祭。「地方の里山を巡りながら現代アートを楽しむ」というプロジェクトが、ここまで大きくなると思っていた人は、アート関係者を含めてほとんどいなかったのではないでしょうか。
大地の芸術祭は、いつもは3年毎の夏に開催されていましたが、コロナ禍もあって1年延期に。会期も4月から11月までのロングラン開催となりました。
会場は6つのエリア(十日町、津南、川西、松代、松之山、中里)で、とても広大。「全ての作品を見る」と思わず、ポイントを絞った鑑賞をおすすめします。ここではエリアごとに3ページでご紹介していきましょう。
十日町駅は拠点のひとつ
【十日町エリア】
6つのエリアで最も広く、かつ作品も多いエリア。絶対に外せないのが、越後妻有交流館キナーレ内にある、越後妻有里山現代美術館 MonET(モネ)です。
水面に建物が映っているように見えますが、これはレアンドロ・エルリッヒが池の床面に描いた虚像。きれいに見えるポイントは2階で、ちゃんと会場に記されています。中谷芙二子の霧の作品は、夏季限定です。
レアンドロ・エルリッヒ《Palimpsest:空の池》/中谷芙二子《霧神楽》
MonETの外壁に描かれた《physis》も新作です。淺井裕介が、水をテーマに制作しました。
淺井の作品は、十日町駅からMonETに向かう途中の広場と路面でも見ることができます。
淺井裕介《physis》
日没後にぜひ訪れてほしいのが、越後妻有文化ホール「段十ろう」。長い庇から美しい光が降り注ぎます。
越後妻有の四季を象徴する色と、地元の織物から着想した作品で、ゆっくりと色が変わる様子はとてもロマンチック。プログラムは月ごとに変化します。
髙橋匡太《光り織》
十日町市が誇る国宝・火焔型土器からイメージした作品が、景山健の《ここにおいて「縄文の時とともに」》。縄で作った巨大な作品を、かつて神社の本殿が建っていた場所に設置。作品の中央には、苗木が植えられました。
数千年前の縄文時代から、人々が暮らしていたこの地。苗木が数千年かけて成長すると、その大木に作品がはまる様子をイメージしています。悠久の時を見越した、スケールの大きな作品です。
景山健《ここにおいて「縄文の時とともに」》 ちょうど最終設営中だった景山さんにお話しを伺えました。
椛田ちひろ《ゆく水の家》は、古い流れと新しい流れが同居してきた、この地の歴史から着想した作品です。
障子紙に表現された「流れ」は、ボールペンで描いたもの。背面から光があたり、幻想的な空間がつくられています。床面も印象的ですが、近寄ってみると素材は安価な波板。巧みなアイデアに感心させられました。
椛田ちひろ《ゆく水の家》
茅葺き屋根の古民家「うぶすなの家」の2階で展示されているのは、折り紙の作品。果てしなく分割されていく「無限折り」を使った白い折り紙の作品のほか、色を使った折り紙も展示されています。
作者は、新潟生まれの布施知子。パーツを組み合わせてつくる「ユニット折り」の第一人者です。
布施知子《うぶすなの白》
地方で開催される芸術祭では、食事が楽しみという方も多いでしょう。作品が展示されている施設で食べることができる、おすすめメニューもご紹介します。
まずは、さきほどご紹介した「うぶすなの家」で味わえる季節の料理。地元のお母さんが自ら育てた野菜も使っています。
「うぶすなごはん ~お母さんの季節の小鉢とメインの一皿~ 肉:妻有ポークの塩麴煮豚&車麩唐揚」2,000円
越後妻有里山現代美術館 MonETの1Fコミュニティスペースでは、オリジナルバーガーが販売中です。夏会期は地元のブランド豚・妻有ポークとかぐら南蛮を使ったボリュームたっぷりのバーガー。照り焼きソースとタルタルソースのダブルソースです。
気軽に利用できるオープンなスペースは、良品計画がデザイン監修しました。
「妻有ポークとかぐら南蛮タルタルのダンプリングバーガー(フライドポテト付)」1,350円
MonETにも近い「十日町産業文化発信館いこて」は、手塚貴晴+手塚由比が設計した木造建築(この建築も芸術祭の作品です)。館内のレストラン「いこて」では、地元十日町の季節の食材を使った料理がいただけます。
レストランは靴を脱いで上がるスタイル。大きなテーブルがあるあたたかい雰囲気で、小さな子どもを連れたファミリーも気兼ねなく使えます。
「いこての越後妻有たっぷり御膳」1,800円
【川西エリア】
信濃川を挟んで十日町の西側に位置する川西エリア。見晴らしが良い台地にあるナカゴグリーンパーク周辺に、多くの作品があります。
広い芝生の上を中心に展示されているのは、若手作家約25名による動物彫刻です。子どもたちにも大人気、それぞれの作品に作家の個性が滲み出ています。
「里山アートどうぶつ園 ─ どうぶつたちのソーシャルディスタンス」から 小野養豚ん《...pigeep...pigeep...》
プラスチックで作られた透明の円盤が吊り下げられた作品は、雨の日に小さな水たまりを眺めていたことからの着想です。空中の水が長い時を経て地上に降り注ぐまでを表現しています。
回転しながら周囲の風景を映し出し、とても美しい作品です。1Fの駐車場と2Fの室内で展示されています。
小松宏誠《あめのうた》
人間の目の特性に着目し、光を利用したさまざまな作品で知られるジェームズ・タレル。現代アートの巨匠であるタレルの作品に宿泊できる、世界でたったひとつの施設が「光の館」です。
「光の館」は、見学だけなら夕方まで可能ですが、光の演出は日没・日の出の時間にあわせて行われるので、これを体験するには宿泊(要予約)が必要です。
ジェームズ・タレル《光の館》
タレル自身の意向もあり、宿泊は1グループだけでなく、少人数で利用する場合は、他のグループと同泊。今回も、3人連れのグループと一緒になりました。16時~16時半に現地でチェックイン。宿泊者が揃ったところで館についての説明を受け、後は翌朝のチェックアウトまで、宿泊者だけで過ごします。
部屋は、屋根が開閉する部屋のほかに、キッチンの隣にある6畳間と、浴室やトイレと同じフロアにある8畳間。ジャンケンに勝ったので、8畳間を使わせていただきました。
ジェームズ・タレル《光の館》 屋根が開閉するアウトサイドイン(12.5畳)
食事は自炊も可能ですが、今回はケータリングの夕食をいただき、18時半頃から「光のプログラム」がスタート。畳の上で大の字になって楽しめるのは「光の館」ならではの醍醐味です。逆に、床が畳なので、雨天時は実施できません。
日の出の時間も「光のプログラム」が行われますので、早起きができればぜひ2回目もお楽しみください。
ジェームズ・タレル《光の館》 屋根が開閉するアウトサイドイン(12.5畳)
浴室も見どころのひとつ。通常の照明が無く、浴槽と入口部分にわずかな光ファイバーがあるのみです。日没後に入ると互いの顔も判別できないほどですが、水中にある身体が発光するように感じられます。
なんといっても「ジェームズ・タレルの作品に泊まった」という経験が、最高のお土産といえます。
ジェームズ・タレル《光の館》 浴室(Light Bath)
ここでご紹介できなかった作品を含め、十日町と川西で見てきた作品を動画でまとめました。やや長いですが、雰囲気がわかると思います。
[ 取材・撮影・文:M.F. / 2022年7月30日~8月7日 ]
→ 越後妻有 大地の芸術祭 2022(レポート その1 十日町・川西)
→ 越後妻有 大地の芸術祭 2022(レポート その2 松代・松之山)
→ 越後妻有 大地の芸術祭 2022(レポート その3 中里・津南)
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