答えがない美術の世界にのめり込んだ高校生、矢口八虎とその仲間たちを描く人気漫画『ブルーピリオド』(作:山口つばさ)。
活躍中のアーティストやクリエイターの「ブルーピリオド」時代の作品などユニークな内容で、美大を目指して青春を燃やすスポ根受験物語の世界観を紹介する展覧会が、天王洲の寺田倉庫G1ビルで開催中です。
寺田倉庫G1ビル「ブルーピリオド展~アートって、才能か?~」会場
“ブルーピリオド”とはピカソの20代前半の画風を指し、そこから転じて、孤独で不安な青年期を表す言葉。
成績優秀かつスクールカースト上位の八虎でしたが、一枚の絵に心を奪われて藝大を目指すことになります。
一筆目「ピカソの絵がわかんない」
序盤の見せ場は、主人公の八虎が見た早朝の渋谷を体験できる「青の渋谷シアター」。
この手の展覧会は、オープニング映像のクオリティが全体の印象を左右しますが、本展はとても秀逸。一気に物語の世界に引き込まれていきます。
三筆目「青の渋谷シアター」
美術作品を理解するのが難しいと感じていた八虎に、作品をみる楽しさを教えてくれたのが美術予備校の同級生、橋田。
会場には、作中に登場する名画の楽しみ方を解説してくれるコーナーもあります。
四筆目「描くのは好き、見るのは苦手」
展覧会の注目ポイントのひとつが「あのひとのブルーピリオド」。「美大受験」に着目し、現在活躍中の6名のアーティスト(会田誠、小玉智輝、近藤聡乃、冨安由真、服部一成、水戸部七絵)の、予備校時代や美術の道を本格的に歩み始めた時代の作品が展示されています。
会田誠さんは高校3年生の夏休みにお茶の水美術学院の夏期講習で描いた木炭デッサンを初公開。「蝿が飛び回るような空間を描け」と指導されたといいます。藝大だけを受験して一次のデッサンで不合格に。浪人が決定しました。
六筆目「あの人のブルーピリオド」 会田誠《無題》 1983紙、木炭65×50cm ©AIDA Makoto Courtesy of Mizuma Art Gallery
「キャラ大石膏室」では、漫画に登場する人気キャラクターが石膏像に。東京藝術大学にある大石膏室をイメージした空間です。
会場では平日限定で、デッサン体験も可能。6人まで同時に鉛筆デッサンが体験できます(画材の持ち込みは不可です)。写真を撮っても良い展覧会は増えましたが(本展も一部を除いて撮影可能です)、デッサン体験を売りにした展覧会は、あまり記憶にありません。
七筆目「キャラ大石膏室」
藝大の一次試験はデッサン。自画像を描く課題でしたが、物語では八虎の鏡が割れてしまうというアクシデントが起こります。
会場には、原作には未登場の他のキャラクターたちの作品(自画像)も含め、試験会場が再現されています。
九筆目「1次試験『自画像』」
会場後半には、作者を紹介する「山口つばさの部屋」も。ブルーピリオドの設定資料や制作環境など、ここでしか見られない貴重なアイテムが並びます。
また、学生時代(=ブルーピリオド時代)の山口つばささんにもフォーカス。山口さん自身も東京藝術大学出身。インタビュー動画や卒業制作のマンガ作品も公開されています。
十三筆目「山口つばさの部屋」
会場近くのアートギャラリーカフェ「WHAT CAFE」には、展覧会とのコラボレーションメニューも登場。
アート業界で活躍する若者が全身で感じる甘酸っぱい青春を、爽やかなブルーのソーダで表現した「青春のブルークリームソーダ」(900円)など4種類です。
左手前が「青春のブルークリームソーダ」
さらに会場のみならず、展示内容をバーチャルエキシビション(7月公開予定)で観覧できるブルーピリオド展デジタルも開催。会場では観ることができない山口つばささんのドキュメントや麒麟・川島明出演の動画など、デジタルのみでしか見れないコンテンツも展開します。
展覧会の期間中、会場がある天王洲では連動企画「ブルーピリオド展×天王洲 ─ 天王洲の青を探せ ─」も開催中。天王洲エリアにちりばめられた青を探しながら街の魅力を楽しんでもらう企画です。
上野周辺、六本木、東京駅周辺などとともに、東京屈指のアートスポットとして存在感を増す天王洲エリアを、この機会にお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年6月16日 ]
©山口つばさ/講談社/ブルーピリオド展製作委員会