ガレの作品展示で定評のある「みらい美術館」。今回は「ガレ」と「マイセン」を取り上げています。ガラスと磁器、フランスとドイツが誇る精緻な技術を堪能できる展覧会です。
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歯科クリニックのサインを見ながら階段を上ると、美術館はクリニックに併設されています。エントランスではマイセン作品が出迎えてくれました。歯科学園の創設者、故鶴見輝彦氏は、歯科技工士を目ざす学生に、審美眼や技術を磨くという目的もあり美術館を創設しました。
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エントランスのマイセン展示
マイセンは、焼成、絵付けなど、歯科技工に近い職人技を有する名窯です。ヨーロッパで年代も近いデコラティブなガレとマイセン。ガラスと磁器の違いはありますが、それぞれの職人魂に技術者が触発される機会として、また来館者からの要望も多いマイセンをとりあげました。美術館の入口にもマイセンの鏡やカップ、食器が並びます。
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展示風景
展示の最初は、ドームとウジューヌ・ミッシェルの作品。こちらはガレとマイセンの同時代、趣向の違う技術を持つ2人の作品を対比として展示したそうです。
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展示室入口
展示室の左側にガレ作品が並びます。これまでも展示のたびにガレの新たな側面を披露してきました。今回もテイストの違う作品で目を楽しませてくれます。現在休館中の大一美術館からよりすぐりの7点が出品。ひときわ異彩を放っています。
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大一美術館作品
特別出品は、北斎漫画「魚濫観世音図」から引用した鯉をエナメル彩で描いた「鯉文花器」。青みがかったガラスは月光色ガラスで、1878年のパリ万博に出品され銅メダルを受賞しました。ジャポニスム様式が人気を博し、漆のような赤と黒の盛り上がった装飾も見どころです。
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エミール・ガレ「鯉文花器」 大一美術館所蔵館
ガレの死後、工房制作された花器。難しい大型作品に木々の細やかな葉や枝を、酸化腐食と彫刻で精緻に描いています。
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ガレ レマン湖文花器 1918-1931年頃
デコラティブな磁器は1900年頃のマイセンのアンティークです。象に乗るムアール人や、ビーナスの凱旋の様子が生き生きと表現されています。
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手前:マイセン 象に乗るムーア人 1900年頃 奥:マイセン ビーナスの凱旋 1900年頃
キャンドルスタンドには神話の人物をモチーフにした細やかな技巧が見られます。
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マイセン 神話人物文キャンドルスタンド 1900年頃
こちらは、1740年に作られたパゴダと呼ばれる人形の復刻版。風を送り、頭部と舌、両手がゆらゆら動いています。高い技術のしなやかな動きが今の時代に引き継がれています。
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マイセン パゴダ 2010年代
パゴダとは本来、仏塔を意味していました。当時、シノワズリーが流行し東洋を象徴する建物と人形のイメージを重ね「パゴダ」と呼ぶようになったとされます。
マイセンの特別展示は「スノーボールの鳥飾壺」です。スノーボールとは、焼成前の磁器表面に五弁の花を隙間なく貼り付け、絵付けと焼成を行います。気が遠くなる時間を要し、ゆがみや窯傷も生じていくつもの失敗を重ねた上で生まれる作品は精緻さの極致といえます。
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⑪マイセン「スノーボール鳥飾壺」1900年頃
日本の職人技に高い評価が集まりますが、ヨーロッパの手仕事が作り出す造形の精緻さにもため息が出ます。「職人魂によって紡ぎ出される作品の芸術性や込められた思いの違いを、それぞれの作品から感じて比較してください」という思いが伝わる展覧会です。
[ 取材・撮影・文:コロコロ / 2022年4月29日 ]
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