春のうららの隅田川。江戸の桜と花見の季節。
花は古くから人びとに愛され、絵画の主題として数多く取り上げられてきました。 3月に開幕した、すみだ北斎美術館の企画展『北斎花らんまん』では、葛飾北斎やその門人たちが描いた桜をはじめ、四季の花々が展示室を彩ります。 鑑賞される花、物語に登場する花、意匠として着物や道具にモチーフとして取り入れられた花など、多角的な視点から「花」に関する作品を一度に楽しめる機会です。
フライヤーや展示室のカラーリングも、桜のような淡いピンク色が印象的。 葛飾北斎と言えば、「北斎ブルー」とも呼ばれるベロ藍の深い青色や、「赤富士」の鮮やかな赤色を思い浮かべる人も多いかもしれません。 そんな人びとにとって、今回の『北斎花らんまん』は北斎の新たな一面を見せてくれるものであり、彼の多彩な表現を堪能できるものです。
うららかな春の陽気を感じる、淡いカラーが印象的
「1章 春の到来 早春の花々」は、季節感に溢れる展示の幕開け。 かつて「花見」と言えば、奈良時代までは梅を指しました。 辛夷(こぶし)や木蓮など、厳しい冬の終わりと春の訪れを告げる花々が描かれています。
存斎光一《花咲か爺さん》 すみだ北斎美術館蔵(前期) 花咲か爺さんと言えば桜のイメージですが、本図は梅です。
「2章 桜 春爛漫」では、桜にまつわる絵画が展示室を彩ります。 花見の対象は平安時代から「桜」に移り変わり、貴族だけの楽しみだった花見はやがて武士や町人にも親しまれるようになりました。 江戸時代には桜の名所も新たに作られ、庶民に広く浸透していきます。すみだ北斎美術館の近くを流れる隅田川も、当時から桜の名スポットです。
桜に美しい女性と着物の取り合わせは、華やかさも格別。 「桜に富士」も粋な江戸らしさ、日本らしさを感じられます。
葛飾北斎《冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二》では、薄い紅をぼかして摺った後に、花の立体感を空摺(からずり)という技法で施しているところにも注目です。
葛飾北斎《冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二》 すみだ北斎美術館蔵(前期) 空摺とは、色を乗せずに凹凸を付ける技法です。
物語の中の桜にも着目してみましょう。 歌舞伎や小説では、桜を舞台装置とすることで季節感を表したり、桜がストーリーにおいて重要な役割を果たしたりと、あちこちで桜が登場しています。
葛飾北斎《仮名手本忠臣蔵 四段目》 すみだ北斎美術館蔵(前期)
「3章 色とりどり四季の花」は現代の四季に合わせて、季節の花が描かれた作品を紹介しています。 春夏秋冬それぞれの花は、現実では一度に楽しむことが難しいもの。けれども、この企画展ではそれが可能です。 桔梗、椿、菊などの絵画が集まった空間は、花が咲き乱れるユートピアを思わせます。
葛飾北斎《牡丹に胡蝶》 すみだ北斎美術館蔵(前期) をはじめ、色とりどりの花の絵があちこちに
花弁の質感や葉脈の1本1本まで、圧倒的な画力の高さと、ものすごい観察眼で緻密に描かれていることにご注目。 四季それぞれの、あらゆる植物への関心の高さがうかがえます。
葛飾北斎《『北斎漫画』八編 黄精 三角草 黒百合》 すみだ北斎美術館蔵(通期)
萩は秋の七草の1つで、梅や桜と同じくらい多く描かれたと言われています。
葛飾北斎《六玉川 近江 野路》 すみだ北斎美術館蔵(前期)
展示室を彩る花々の中には、自然環境の変化とともに数が減ってしまい、なかなか見られなくなったものや、絶滅危惧種になってしまったものもあるそうです。 花の美しさを愛でるとともに、自然を守ることの大切さも実感させられます。
「4章 暮らしを彩る花の意匠」では、北斎と門人がさまざまな花を意匠化して描いた作品も見てみましょう。 『新形小紋帳』は、北斎がデザインした小紋染の模様を収めた図案集です。
葛飾北斎 『新形小紋帳』 すみだ北斎美術館蔵(通期) 絵師である北斎の、デザイナーとしての側面を見られるのはおもしろい!
1Fミュージアムショップでは企画展にちなんで桜をテーマとした書籍やアイテム、展示作品をモチーフとしたグッズが豊富です。
花柄のクリアファイルは特におしゃれで可愛い!
今回展の限定品として、展示作品をオールカラーで掲載したオリジナルリーフレット(¥300)も販売しています。 お持ち帰りワークショップ「北斎の花でデザインしてみよう」は、切り貼りや写し描き、塗り絵ができるワークシートです。 展示と合わせて、お買い物やワークショップもぜひお楽しみください。
すみだ北斎美術館で“花らんまん”を楽しんだら、近隣の隅田川沿いや隅田公園でお花見をして過ごすのも良いでしょう。少し足を伸ばせば、同じ墨田区内にあるスカイツリーの展望デッキからも、桜の景色を楽しめますよ。 展覧会は5月22日まで。春のお出かけに、いかがでしょうか。
[ 取材・撮影・文:さつま瑠璃 / 2022年3月14日 ]
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