明治時代における大阪財界の重鎮、藤田傳三郎。古美術を愛した傳三郎は、亡くなる直前までその蒐集に情熱を注ぎました。傳三郎親子により国宝9件、重要文化財53件を含む約2,000件という規模になった大コレクションは、1954年に開館した藤田美術館で展示・公開されてきました。
旧美術館は施設老朽化のため、2017年6月に一時休館。このたび、建物が建て替えられて全面的に刷新されました。
藤田美術館 外観
エントランスは広々とした土間。通りに面したガラス面が大きいため、とても開放的な印象です。
展示室への入口は、藤田家邸宅の蔵だった旧美術館の扉を活用しています。新しさの中にも、伝統と記憶を引き継いでいます。
広々とした土間。左側の黒い扉が展示室への入口
蔵の扉から入ると、旧美術館で使われていた梁がシンボル的に展示されています。
堂々とした巨木は、今まで培った伝統を100年後まで引き継いでいく思いを象徴しています。
展示室手前のホール
展示室は旧館と比べて床面積が約2倍に拡大。照明はかなり暗めですが、目が慣れてくると作品が浮かび上がるようです。
低反射ガラスを使っているので、映り込みが少なく、細部までじっくりと鑑賞する事ができます。
藤原佐理《去夏帖》平安時代 10世紀
リニューアルオープンを飾る展示は「赤・朱 古今東西」「コレクターのコダワリ」「曜変天目の青、禅僧の黒」。毎月、順番に展示替えされる事になっており、3カ月に1度のペースで来館すると、すべての展示が入れ替わっている事になります。
《田村文琳茶入》宋~明時代 13~15世紀
展示されている作品の中で、何点かご紹介しましよう。
こちらは鎌倉時代に描かれた、国宝《玄奘三蔵絵》。もとは興福寺に伝わったもので、貫首しか見る事が出来なかったため、ほとんど人の目にふれる事がありませんでした。そのため、鮮やかな色彩が今でも残っています。
国宝《玄奘三蔵絵》高階隆兼 鎌倉時代 14世紀
そして、藤田美術館が誇る逸品、国宝《曜変天目茶碗》も展示されています。
瑠璃色の曜変と呼ばれる斑文が、碗全体を彩ります。同種の曜変天目は3碗のみが現存しており、いずれも日本国内にあって、国宝に指定されています。
国宝《曜変天目茶碗》南宋時代 12〜13世紀
展示室を出ると、明るいギャラリーへ。ここではコレクションの礎を築いた藤田傳三郎について紹介されています。
ギャラリーからは庭にも出られるようになっており、高野山から移設されてきた多宝塔も見る事ができます。
ギャラリー
道路の交差点に近く、信号待ちの人の目にも止まる場所にあるのが、茶店「あみじま茶屋」。美術館にオープンキッチンスタイルの飲食店を併設しているのは、かなり珍しいと思います。
美術に興味がない人が気軽に入店し、若手作家が手がけた器や盆を使うことで、芸術文化との接点になる事を目指しています。
茶屋
これまでは限られたシーズンだけの開館だった藤田美術館ですが、今後は基本的に年末年始を除いて無休。19歳以下は入館料も無料です。
文字通り、別のミュージアムに生まれ変わったといえるほどの大変貌を遂げた藤田美術館。首都圏の美術ファンからも大きな注目を集めそうです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年3月25日 ]