風景や人物をジオラマの様に見せる撮影が特徴の写真家・本城直季。大判カメラの“アオリ”を用いてユニークな作品を紹介する展覧会が、東京都写真美術館に巡回中です。
会場風景
「introduction」では、大学4年の時に借りた大判フィルムカメラで試行錯誤しながら撮影した写真の一部を紹介しています。空撮でのピント確認とその練習に使用したインスタントフィルムによる写真から、その後の「small planet」シリーズに繋がる過程をみることができます。
「introduction」
本城直季の作品と言えば、まるでミニチュア作品を見ているかのような「small planet」シリーズ。 大判カメラを使用し、1枚ずつ空撮された写真は、動き続けるヘリの中で一瞬を捉えたものです。
一見すると不思議な世界のようにみえますが、写真のように一瞬で風景全体を把握できない人の視線にとても似ていると本城は話します。
「small planet」シリーズ
ケニアでの撮影で難儀したのは、僅かな音にも反応する動物たちです。300枚ものフィルムのうち、上手くとれたのは10分の1程度だそう。
雨季と乾季により成長する草木や、それを食べつくす草食動物たち。ケニアの草原は、自然や動物によって作り出される痕跡が感じられます。
「kenya」
オルゴールの箱の様に並べられているのは「treasure box」。戦後間もない頃、荒廃した現実とは異なりキラキラとした世界で人々を魅了した宝塚の、今も光り輝く華やかな世界を写し出しています。
「treasure box」
市原湖畔美術館からはじまり、高知、宮崎、岩手と巡回をしてきた本展。開催地それぞれの街並みを撮影した写真も見どころです。
繰り返し増殖する建物が続く広大な都市・東京。展望台から眺める景色は模型のようですが、人工的に作られた仮想空間にも感じられます。 東京オリンピックの開催に向け再開発が進み、競技場周辺だけでなく、いたるエリアに高層ビルが立ち並んでいることが分かります。
「tokyo」
東京と対比することができるのは「kyoto」。四季を通した日本らしい街並みや文化、自然との融合が感じられます。
「kyoto」
学生の頃からカメラを持ち歩き、ポラロイドカメラを使って街並みを撮影していたという本城。ボケや色味、構図だけでなく、写真の楽しさを教えてくれたポラロイドならではの作品も紹介されています。
日常の写真
2011年に起きた東日本大震災の様子を収めているのは「tohoku 311」。連日被災地から数々の報道が行われる中、街がなくなるとはどういうことか、記録としてでも撮影をしようと決心し震災から3ヵ月後に撮影された作品です。撮影された写真には、風化されることのない陸前高田の様子も収められています。
日常の写真
学生の頃から訪れていた東京都写真美術館での個展は非常に嬉しいと語る本城。これまでの作品を凝縮してみることができる、コンパクトな空間でそれぞれの“まち”の不思議を楽しんでほしいと語っていました。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2022年3月18日 ]