都市、消費主義、飽食と貧困、日本社会、原爆、震災、スター像、メディア、境界、公共性などを主題にしたメッセージ性の高い作品で注目を集めるアーティスト・コレクティブ、Chim↑Pom(チンポム)。
初期から近年までの代表作と、本展のための新作を一挙に紹介する展覧会が、森美術館で開催中です。
森美術館「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」会場入口
展覧会は10セクションと、ミュージアム+アーティスト共同プロジェクト・スペースの構成で、会場はまるで迷路のよう。特に序盤は展示室が二層構造になっており、上層部にはアスファルトが敷かれるなど、常識破りの展示空間です。特に動線も設けられておらず、鑑賞者は好きなルートで探検するように進んでいきます。
森美術館「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」会場より 「道」のセクション 《道》2022年
《ゴールド・エクスペリエンス》は、黒いビニールのゴミ袋を模した、巨大なバルーンの立体作品。鑑賞者は作品の中に入って歩き回って遊ぶことができます。
普段はゴミを捨てる側の人間が、袋の中に入れられたゴミそのものになる、という試みです。
《ゴールド・エクスペリエンス》2012/2022年
「Don’t Follow the Wind」は、東京電力福島第一原発の事故により汚染された帰還困難区域内で開催されている国際展。Chim↑Pomの発案により、“観に行くことができない”展覧会が2015年から現在まで開催されています。
本展では音声でプロジェクトを紹介。東京の風景を眺めながら、福島の今を想像してもらうことを促します。
森美術館「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」会場より 「Don’t Follow the Wind」のセクション
《ヒロシマの空をピカッとさせる》は、広島の原爆ドーム上空に飛行機雲で「ピカッ」という文字を描いたもの。この作品で、良くも悪くもChim↑Pomの名は広く知られるようになりました。
作品は論争を呼び、Chim↑Pomは事前告知の不徹底を謝罪。それで終わりではなく、その後もChim↑Pomは市民らと対話を重ね、折り鶴を使った作品などプロジェクトを継続している事は、あまり知られていないかもしれません。
森美術館「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」会場より 「ヒロシマ」のセクション
「May, 2020, Tokyo」は、2020年5 月、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言下の東京で行われたプロジェクトです。
「TOKYO 2020」「新しい生活様式」という文字の部分をマスキングし、青焼き写真の感光液を塗ったビルボードを人流が激減した都内各所に設置。時間とともに青く焼き付けられたキャンバスには白い文字がスローガンとなって浮かび上がっています。
森美術館「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」会場より 「May, 2020, Tokyo」のセクション
Chim↑Pomのエリイは、メンバーで唯一の女性という事もあり、Chim↑Pomの顔として紹介される事も多い人物です。ただ、エリイ自身は「女性」や「アーティスト」という既存のイメージを拒んでいます。
本展では、カンボジアの地雷原でのプロジェクトや、路上で開催した自身の結婚パレードなど、エリイが中心になったさまざまなプロジェクトを紹介。エリイの出産を機に構想された新作サウンド・インスタレーションも展示されています。
森美術館「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」会場より 「エリイ」のセクション 「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン」2007-2008年
展覧会場の冒頭には、アート・プロジェクトとして、託児所《くらいんぐみゅーじあむ》を設置。Chim↑Pomと同世代の子育て事情から発案されたものです。
ユニークなアプローチで、社会の諸問題に鋭く切り込んでいくChim↑Pom。パワフルな活動の全体を俯瞰できる、初めての本格的な展覧会です。お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年2月17日 ]