歌舞伎、文楽、能楽、雅楽、組踊。日本が誇る5つの伝統芸能を“体感”し、それぞれの“わざ”の魅力にせまる展覧会が東京国立博物館 表慶館で開催中です。
会場の東京国立博物館 表慶館 取材日は雪でした
まずは「歌舞伎」から。江戸時代初期にお国という女性芸能者が、常軌を逸した異端児“かぶき者”の姿を舞台で演じたことをきっかけに、新しい芸能となった歌舞伎。
入口に現れるのは『金門五山桐』「南禅寺山門の場」の舞台を再現したもの。 花道やセリなど客席の目の前で役者が演じる舞台演出は、歌舞伎ならではと言えます。舞台に大道具を組み立てることを「飾る」と表現しますが、絵画美・色彩美にも富んだ大道具や吊道具が魅力です。
第1章「歌舞伎」
華やかな舞台衣裳や歌舞伎独自の化粧である隈取についても展示されていますが、ここでは、七代目市川團十郎が「歌舞伎十八番」に制定した演目のひとつ「暫」の衣裳を紹介します。
主人公の鎌倉権五郎景政は、悪人を成敗する力強さと少年らしい若々しさを兼ね備えた人物です。張りを出すために、舞台では袖につっかえ棒を入れる工夫がみられます。
第1章「歌舞伎」 (中央)《衣裳「暫」鎌倉権五郎景政 》 松竹衣裳(株)
次に紹介するのは、人形浄瑠璃の代名詞「文楽」です。人形浄瑠璃は、義太夫節という浄瑠璃に合わせて人形を使う人形劇で、江戸時代初期に大阪で生まれました。
2階の入り口に現れる人形遣いを見てみると、3人で1体の人形を操っていることが分かります。人形浄瑠璃では、「主遣い」、「左遣い」、「足遣い」に分かれて人形を自在に動かします。「義経千本桜」「河連法眼館の段」の再現舞台では、舞台の裏側にも回ってその様子を確認することができます。
第2章「文楽」
「義経千本桜」は、文楽を代表する作品の1つ。愛妾静御前に与えた初音の鼓にまつわる狐忠信の一場面の記録映像や写真も紹介されています。
第2章「文楽」 《大道具「義経千本桜」河連法眼館の段》 製作:関西舞台(株)
続いては、能と狂言を合わせて呼ばれる「能楽」。厳粛で優美と言われる歌舞劇、仮面劇である「能」、笑いの要素の強い「狂言」とそれぞれの舞台には特色があります。
第3章「能楽」
観阿弥・世阿弥によって芸術的に大成した能は、心に秘めた情念を音楽や舞の情調に託してもので、恋心や妄執を語るものです。
能舞台は、かつて野外で行なわれていたため、屋根や四隅に柱があります。演者が自分の立ち位置の目印にする柱「目付橋」や遠近感を感じさせる大小異なる松を舞台で感じることができます。ここで紹介されているのは、3月に初公開となる復曲能『岩船』をテーマにした能舞台です。
第3章「能楽」 《能舞台》 国立能楽堂
1階に降りると現れのは、色鮮やかな舞台「組踊」です。「組踊」は、1719年に琉球王国の新しい国王任命のためにやって来る中国皇帝の使者を歓待するために 生まれた音楽劇です。琉歌や琉舞を織り込みつつ進行する物語は、宮廷に仕える士族やその子弟たちによって演じられました。
第4章「組踊」
首里城正殿の御庭に設置された御冠舟舞台をイメージした舞台の再現とともに、沖縄の古文献をもとにして創作されたといわれる『銘苅子』の天女も立体展示されています。紅型衣裳や小道具、装身具類は、沖縄ならではの色彩を感じさせます。
第4章「組踊」 《大道具 御冠船舞台》 製作:金井大道具(株)
最後に紹介するのは「雅楽」。5~9世紀に中国や朝鮮から日本に伝来した楽舞を整理し集成した宮廷芸能です。
中国の楽舞である「唐楽」を担当する左方と、朝鮮やその他の地域の楽舞である「高麗楽」を担当する右方に編成されているのが特徴です。左方では管絃だけを、右方では舞楽のみを行います。
第5章「雅楽」 《大道具 舞楽の舞台(縮小版)》 製作:金井大道具(株)
展示されている装束類は、宮内庁式部職楽部で実際に使用しているものです。左方と右方に配列して展示されているため、襲装束や蛮絵装束や舞台写真を左右行き来して見比べることもできます。
第5章「雅楽」
本展は、新型コロナウイルス感染拡大防止のために2020年に中止となった展覧会の内容を一部リニューアルして開催しています。 魅力あふれる5つの伝統芸能を“会場で体感!”してみては。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2022年1月6日 ]