ホラー、SF、ギャグなど多彩なジャンルのマンガ作品を世に送り出し、熱狂的なファンも多い漫画家・楳図かずお(1936-)。
楳図ならではの作品世界を紹介する展覧会が、東京シティビューで始まりました。
東京シティビュー「楳図かずお大美術展」会場入口
先見的な世界観と幻視的なビジョンで、圧倒的な存在感を放つ楳図かずお。『へび少女』や『猫目小僧』などのホラー漫画、小学館漫画賞を受賞した『漂流教室』、“グワシ”が社会現象になったギャグ漫画『まことちゃん』、さらに『おろち』『洗礼』『わたしは真悟』『神の左手悪魔の右手』 『14歳』など、数々のヒット作を手がけています。
会場は『漂流教室』のグラフィックゾーンから。荒廃した未来世界に校舎ごと送られてしまった、小学校の児童たち。意表をついた展開で、読者の心を鷲掴みにしました。
『漂流教室』グラフィックゾーン
今回の展覧会では、楳図かずおの作品と現代アートのコラボレーションが見どころのひとつ。最初のエリアでは、千房けん輔と赤岩やえによるアート・ユニット、エキソニモが『わたしは真悟』をテーマにしたインスタレーションを制作しました。
大量のケーブルが山積する空間に設置された多数のモニターには『わたしは真悟』の作中場面を上映。会場の外に見える東京タワーは「わたしは真悟」の作中で最も象徴的なモチーフの一つです。
エキソニモ✕『わたしは真悟』インスタレーション
続いて、楳図かずおの年表と、過去作品と関連資料を紹介するエリアです。
楳図かずおは1936年、和歌山県高野山生まれ。奈良県で育ちました。漫画を描き始めたのは小学校4年生、高校3年生の時に『別世界』『森の兄妹』でデビューしました。
楳図かずおの作品は、アニメや映画など映像化されたものも少なくありません。『まことちゃん』はアニメ映画に、『漂流教室』は実写映画になりました。
『まことちゃん』
続く「ZOKU SHINGO - 小さなロボット シンゴ美術館」は、本展のメインといえるエリア。『14歳』以来、実に27年ぶりとなる楳図かずおの新作です。作品はアクリル絵画による101点の連作で、時系列に沿って展開。『わたしは真悟』の続編という位置付けで、制作に4年の歳月を費やしました。
物語性を持つという点ではマンガに近いものの、各作品にはコマ割りがなく、1枚1枚が絵画作品として制作されています。
「ZOKU SHINGO - 小さなロボット シンゴ美術館」
続くエリアは、楳図かずおの「ZOKU SHINGO - 小さなロボット シンゴ美術館」が着彩される前のオリジナルの素描(鉛筆画)101点と、冨安由真によるコラボ。
さらに『14歳』のグラフィックゾーンと続きます。『14歳』は1990年代に発表された作品で、環境破壊による人類の破滅がテーマ。現在の社会問題を予兆させるような描写も少なくありません。
『14歳』グラフィックゾーン
その『14歳』をはじめとした楳図作品と向き合いながら新作を制作したのが、現代日本を代表する美術家の一人、鴻池朋子です。
作品は「ZOKU SHINGO - 小さなロボット シンゴ美術館」の素描にリスペクトを込めたドローイングや、『14歳』の終盤に登場する「ゴキンチの先生」の顔をオモリとして作られた振り子、『14歳』の作中に語られる言葉を左手で書き写したドローイング、などです。
鴻池朋子インスタレーション
最後は「未来へ」。『漂流教室』のラストシーンでは、母が待つ現在に戻ることかできなかった子どもたち。『14歳』では唯一生き残った知性を持つゴキブリのゴキンチが待つ地球へと帰還。ふたつの作品のラストは逆の軌跡を描きますが、時空を超えて一本の虹のように繋がっています。
「未来へ」
漫画の展覧会は、原画を展示する事だけに留まるパターンも少なくないなか、本展は楳図かずおというクリエイターが持つ独自の世界に着目し、それを会場全体で見せようとする意欲的な試みです。
古くからのファンも、原作を読んだ事が無い若い方も。溢れ出るような楳図ワールドをお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年1月27日 ]
©楳図かずお ©エキソニモ ©鴻池朋子 ©楳図かずお/小学館