通常、その館の学芸員によって展示構成や作品が決められるコレクション展ですが、現在京都市京セラ美術館で開催中の展覧会「コレクションとの対話:6つの部屋」では、一味違う面白い試みがなされています。
京都市京セラ美術館開館1周年記念展「コレクションとの対話:6つの部屋」展示風景(竹内勝太郎の部屋)
ジャンルや時代を越えたスペシャリスト—建築家やフランスで活躍した画家、現代美術家たちが各自のアプロ―チで同館の所蔵品と「対話」。コレクションの歴史を紐解き、作品に感化された新作を制作するなど、多様な表現が6つの部屋で繰り広げられています。
京都市京セラ美術館開館1周年記念展「コレクションとの対話:6つの部屋」展示風景(宮永愛子さんの部屋)
展示について説明する繊維造形作家・ひろいのぶこさん
繊維造形作家のひろいのぶこさんは、染織家・山鹿清華(1885-1981)が残した古裂や糸の調査をベースに、彼の作品を紹介します。山鹿清華の回顧展は現在に至るまで2回しか開催されていないとのこと。初めてみた彼の鮮やかな色彩と個性的なモチーフはとても新鮮です。
山鹿清華(2点とも)《透明手織錦屏風 冷蔵果》 1932年 京都国立近代美術館蔵 (左) 《透明手織錦屏風 冷蔵果(織下絵)》 1932年 京都市美術館蔵(右)(ひろいのぶこさんの部屋)
1932年に制作された《透明手織錦屏風 冷蔵果》は、当時はまだまだ珍しかった冷蔵庫を屏風に仕立てています。上部のシダのような模様が表現するのは霜。背景部分には透明フィルムを糸のように仕立て使用していたそうです。経年で変色してしまっているので当時の状態を想像するしかないのが残念でなりません。
都ホテル「稔りの間」大壁画《豊穣》(部分)1937年 京都府京都文化博物館蔵、京都市美術館蔵(ひろいのぶこさんの部屋)
彼の仕事の中でも珍しい室内装飾、都ホテルの宴会場「稔りの間」の壁面を手掛けた仕事も紹介されています。《豊穣》という題名通り、南国の珍しいフルーツがたわわに実った様子が描かれています。華やかな空間はそこに集う人たちにどれほどの活気をもたらしただろうと想像が広がります。
京都市京セラ美術館開館1周年記念展「コレクションとの対話:6つの部屋」展示風景 (ひろいのぶこさんの部屋)
山鹿の仕事に興味が湧くと同時に、ひろいさんの想い、視点なども伝わってきます。山鹿へのオマージュ、同じ染織家として姿勢や興味の対象など、彼女と山鹿清華の熱い対話を一言も漏らすまいとアンテナを張り巡らせます。
京都市京セラ美術館開館1周年記念展「コレクションとの対話:6つの部屋」展示風景 (髙橋耕平さんの部屋)
この部屋に限らず、どの部屋においても対話は尽きません。
髙橋耕平さんの部屋では、彼の出発点である現代版画に焦点をあてています。所蔵品を俯瞰する視点は、作家ならではと言えるでしょう。
京都市京セラ美術館開館1周年記念展「コレクションとの対話:6つの部屋」展示風景 (竹内勝太郎の部屋)
京都市京セラ美術館開館1周年記念展「コレクションとの対話:6つの部屋」展示風景 (加藤一雄の部屋)
また同館が大礼記念京都美術館の開館準備から関わった学芸職員・竹内勝太郎や、戦後の同館の再開に携わった加藤一雄の残した詩や文章からは、作家たちとの関係がうかがえます。
京都市京セラ美術館開館1周年記念展「コレクションとの対話:6つの部屋」展示風景 (青木淳さんの部屋)
内覧会で挨拶をする青木淳館長
京都という土地で継承される意義を感じつつ、コレクションを巡る対話は新しい気づきを与えてくれます。今までにない深みある鑑賞体験。これを逃すわけにはいきません。
京都市京セラ美術館開館1周年記念展「コレクションとの対話:6つの部屋」展示風景 (アンドレ・ロートの部屋)
宮永愛子《Tracing Time》(一部)2021年 (宮永愛子さんの部屋)
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2021年10月8日 ]
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