複数の参加者を巻き込み、協働で生まれた作品を映像や写真で発表している美術家、加藤翼(1984-)。代表作や話題作を網羅した大規模展が、東京オペラシティ アートギャラリーで開催中です。
会場にはロープで引き起こされて斜めになった構造体と、点在する映像作品。冒頭から加藤の世界観に包まれます。
最初の映像作品《ISEYA Calling》は、解体された老舗やきとり屋の木材を井の頭公園に運び、二階建ての店舗の間取りを正確に復元することを試みたプロジェクトです。
《ISEYA Calling》2012年
奥に進むと、土の山の奥にある映像作品。石油パイプライン建設によって棲みかを追われたプレーリードッグの動きが、穴の出口に仕掛けられた鈴の音で分かります。
撮影されたのは、アメリカ・ノースダコダ州にあるスー族のスタンディングロック居留地。人間の傲慢さ、弱者への眼差し、自然との共生を提示しています。
加藤翼《Underground Orchestra》2017年
広い展示室に進むと、さらに圧巻のインスタレーション空間です。写真ではスケール感が分かりにくいですが、中央に空いている穴の部分は、人が楽に行き来できる大きさです。
国際的な芸術祭や大型グループ展には何度も出展している加藤ですが、美術館での大型個展は今回が初めて。会場全体を使った空間演出は、見応えがあります。
東京オペラシティ アートギャラリー「加藤翼 縄張りと島」会場風景
《Superstring Secrets: Tokyo》は、「秘密」を紙に書いて投函してもらう作品です。パンデミック下の東京において、国立競技場の周辺で集められた「秘密」は、シュレッダーで裁断され、縄状に整えられていきます。
このプロジェクトは香港でスタートし、現在も進行中。「秘密」を集める時代や場所を変えながら、その内容がアップデートされていきます。
加藤翼《Superstring Secrets: Tokyo》2020
こちらは、携帯電話サイズの4つの液晶画面による作品。シアトル、ボストン、クアラルンプール、メキシコシティの路上で、人がこちら側に向かって淡々と小石を投げ続けます。
電話で話しながら姿が見えない相手を想像し、同時に石を投げるプロジェクト。離れた場所にいる人々の緩やかなネットワークの形を示しています。
加藤翼《Can You Hear Me?》2015
加藤の代表作といえるのが《The Lighthouses – 11.3 PROJECT》。東日本大震災の後、加藤は福島県いわき市でボランティア活動を行う一方で、家を失った家主たちから大量の木材の提供を受けました。
3.11を逆にした11月3日の文化の日に行われたこのプロジェクトには、呼びかけに応じて500人もの人が参加。家々の瓦礫を使って灯台のイメージに組みあげられた構造体を、皆が力をあわせてロープで引き起こしました。
加藤翼《The Lighthouses – 11.3 PROJECT》2011
《Woodstock 2017》は、4人の男性がアメリカ国歌「星条旗」を演奏する作品。ただ、それぞれの身体はロープで縛り合わされています。必死に一つの曲を奏でようとするさまは、とてもユーモラスです。
タイトルはもちろん、1969年にウッドストックで行われた、ジミ・ヘンドリックスによる歴史的演奏からつけられたものです。
加藤翼《Woodstock 2017》2017
朝鮮半島と日本列島の中間に浮かぶ、韓国語ではテマド、日本語では対馬と呼ばれる島。加藤はこの島で出会った韓国人男性とともに、自分たちのいる位置情報を示すサインボードを、無人島に打ち立てました。
韓国語しか話せない男性と、韓国語を話せない加藤。言葉の壁がありながらも、コミュニケーションを取りながら同じ目的に向かいます。
加藤翼《言葉が通じない》2014
《Listen to the Same Wall》は、隣接した3軒のパティオで、3人のミュージシャンが演奏を行う映像作品。3人は高さ10mの壁に隔たれているため、合図もできませんし、相手の演奏の音を聞くのも困難です。
偶然の協奏を聞くことができるのは、パティオを上から俯瞰する鑑賞者だけ。モニターが床に置かれているので、会場では階段を上がった場所から鑑賞すると、意図が分かりやすいと思います。
加藤翼《Listen to the Same Wall》2015
《凹凸01》は初期の作品です。自身や友人の住む間取りを再現した構造体を、2.5分の1のスケールで再制作。それでもかなり大きな立体ですが、それを加藤の実家の前で、加藤と母親がロープを引いて動かします。
同じ構造体をお台場海浜公園に運んだ《凹凸 02》では、偶然その場にいた通行人が協力したことで、引き倒しに成功しました。
加藤翼《凹凸01》2007
加藤翼の作品は「カタストロフと美術のちから展」(2018年 森美術館)や「21st DOMANI・明日展」(2019年 国立新美術館)などで見て、印象に残っている方もいるのではないでしょうか。加藤ならではの個性が浮き出てくるような大規模展です。今後の活動にも注目していきたいと思います。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年7月20日 ]