「滋賀県立近代美術館」から「滋賀県立美術館」へ。名称から「近代」をとり、「かわる かかわる ミュージアム」をコンセプトに滋賀県立美術館が再始動しました。
一歩足を踏み込むと高い天井と広々したロビーが迎えてくれます。今回のリニューアルの軸となったエントランスロビーとその周辺。美術館と来館者の交流の場となる「ウェルカムゾーン」と位置づけ整備されました。
「リビングルームのような美術館」を目指し、1階にはカフェとミュージアムショップ、2階にはキッズスペースと授乳室のあるファミリールーム、となりにはファミリートイレも新設されています。
エントランスロビー
明るい印象のキッズスペース
ファミリートイレ
一新された照明やベンチ、表示サインなどの什器が、近代建築のシックな雰囲気に馴染んでいます。それらは滋賀の名産 信楽焼が使われていて、「滋賀にある」美術館の意義を印象付けます。「多くの人や地域と積極的にかかわっていきたい」新しい美術館のビジョンをビシビシ感じます。
ベンチの脚の部分は信楽焼
さて、新しい門出を祝う2つの展覧会がスタートしました。
印象的な企画展「Soft Territory かかわりのあわい」のメインビジュアル
まずは企画展「Soft Territory かかわりのあわい」は、滋賀ゆかりの作家12人によるグループ展です。なんとすべてが新作という意欲的な企画に驚きました。
薬師川千晴《右手と左手の絵画》
「コミュニケーション」をテーマとして、「人と人」「人と物」「人と自然」など様々な関わりを表現した作品が並んでいます。コロナ禍の中で、私たちは、人とのかかわり、モノとの距離感など、今まで思いもしなかったことに直面し、これから先にも不安を抱いています。今を生きる作家の作品からは、同じ時を過ごしているからこそ感じる共感や希望など、リアルさを味わうことができました。
作品は、展示室内だけでなく美術館全体を使って展示されています。これも作品?なんて思うものもあるので、探してみてください。
小宮太郎の作品
度會保浩の作品
屋外に展示された井上裕加里《こうさするこうえん》
一方のコレクション展 「ひらけ!温故知新」では、絵巻の宝庫である滋賀県が誇る名品《桑実寺縁起絵巻》(重要文化財、近江八幡市・桑實寺所蔵)が公開されています。
桑実寺の創建と、本尊の薬師如来の由緒を記した縁起絵巻は、足利義晴の注文により、三条西実隆が詞書の草案を作り、後奈良天皇と青蓮院尊鎮が執筆、絵は土佐光茂が担当しました。注文主、詞書筆者、絵師、注文の経緯などがわかる点で大変貴重で、室町絵巻を代表する1つです。500年も前に制作されたとは思えない色の鮮やかさが目に飛び込んできます。
重要文化財《桑実寺縁起絵巻》(部分)
重要文化財《桑実寺縁起絵巻》(部分)
この絵巻を案内役として「パノラマの視点」、「ストーリーを描く」、「祈りの情景」の3つの観点で同館のコレクションが展示されています。重要文化財の《近江名所図》(後期展示)、滋賀ゆかりの物語を描いた三橋節子の《田鶴来》(前期展示)、そして源氏物語をモチーフにした志村ふくみの《花散里》(後期展示)など見応えがあります。
また展示室の一角では、この3つのポイントから選ばれた小倉遊亀の作品も紹介されています。彼女の作品をみていると改めて美術館が再開したことも感じます。
展示室と展示室の間にあるソファスペース。入りびたりたい。
1階にできたラボ。現在は「Soft Territory」展の関連展示として、成安造形大学芸術学部地域実践領域による「MUSUBU地図」展が開催中
今冬は滋賀出身の画家 野口謙蔵展や、来年早々からスタートするアール・ブリュット展など多彩なラインナップの展覧会が用意されています。新しい「ひらかれた」美術館。これからに期待せずにはいられません。
志村ふくみの作品
展示風景
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2021年6月26日 ]
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