3年半にわたって整備が進められていた長野県立美術館が新築オープン。善光寺に隣接する絶好の地に「ランドスケープ・ミュージアム」をコンセプトとした、新しい美術館が誕生しました。
長野県立美術館 外観
美術館は、1966年に長野県信濃美術館として開館。開館以来50数年を経て全面改築される事となり、名称も新たに長野県立美術館として生まれ変わりました。
建物は設計者選定プロポーザルで選ばれた、宮崎浩/プランツアソシエイツが担当しています。
1階のメインエントランスから館内に入ると、吹き抜けのエントランスホール。2階の連絡ブリッジは、併設する東山魁夷館と結ばれています。
エントランスホール
企画展のための展示室は、1階と2階に全部で4つ。国宝・重要文化財の展示ができる仕様になりました。
オープニングの展覧会は「未来につなぐ~新美術館でよみがえる世界の至宝 東京藝術大学スーパークローン文化財展」。公開と保存・修復・復元という、美術館の本質に関わるさまざまな問題について考える企画です。バーミヤンから法隆寺まで、仏教東漸の道のりを「スーパークローン文化財」で紹介していきます。
「長野県立美術館完成記念 未来につなぐ~新美術館でよみがえる世界の至宝 東京藝術大学スーパークローン文化財展」展示風景
1階奥には「交流スペース」。すべての人が気軽に訪れることができ、アートを介した様々な交流を生み出す場として設けられました。
L字型の壁面には「新美術館みんなのアートプロジェクト」で制作された映像作品として、榊原澄人とユーフラテスの新作を紹介(8/15まで)。奥の「オープンギャラリー」では「美術館のある街・記憶・風景」展が開催(6/27まで)。交流スペース、オープンギャラリーは無料です。
「交流スペース」 榊原澄人《飯縄縁日》上映展示風景
2階には、視覚に限定しないさまざまな鑑賞が可能な「アートラボ」も新設されました。オープニングでは「コレクション展示室」も使って、金箱淳一、中ハシ克シゲ、西村陽平、光島貴之の4名による「ふれてみて」展(8/15まで)が始まる予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大のため、開催は延期となっています。
今後のコレクション展示室では、郷土作家の作品や信州の風景画を中心に紹介される予定です。
「ふれてみて」展示風景
3階に上り、左手から外に出ると、屋上広場[風テラス]。目の前に国宝・善光寺を望む、絶好の展望広場です。
奥行6m、長さ36mの大きな庇の内側にある佐久桧は、熟練した大工が1カ月以上かけて組み上げました。東側道路からも自由に入る事ができるこのスペースは「信州の新たな風景」を楽しめる場所として人気を呼びそうです。
屋上広場[風テラス]
新美術館と東山魁夷館の間は、旧信濃美術館が経っていたエリアです。旧美術館へのリスペクトの意味を込めて、この跡地はボイド(空地)とし、高低差がある「水辺テラス」になりました。
ここにある清水多嘉示のブロンズ像《躍進》は、旧美術館のアプローチに設置されていたコレクション第1号の作品です。
「水辺テラス」
この「水辺テラス」では、中谷芙二子による「霧の彫刻 #47610-Dynamic Earth Series Ⅰ-」も見ることができます。世界各地で80以上の霧の作品を発表し、高く評価されている中谷。白い霧に包まれる幻想的な作品は、長野県立美術館では1日8回あらわれます(天候などで変更される場合あり)。
中谷芙二子「霧の彫刻 #47610-Dynamic Earth Series Ⅰ-」
その他、1階のミュージアムショップでは、長野県のランドスケープをモチーフにしたオリジナルグッズなどを販売。同じく1階のアートライブラリーは美術図書や展覧会図録、美術雑誌などを誰でも利用できます。
飲食は3Fにカジュアルなカフェ「Shinano Art Café」、2Fのレストラン「ミュゼ レストラン 善」ではイタリアン、フレンチメニューがお楽しみいただけます。
周辺一帯も整備され、善光寺との回遊性も増した新美術館。明るく開放感のある建物は、美術ファンだけでなく多くの人が楽しめる施設になりそうです。
スーパークローン文化財展の後、初年度の企画展は「長野県立美術館グランドオープン記念 森と水と生きる」「東山魁夷 唐招提寺御影堂障壁画展」「松澤宥 生誕100年」と続きます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年4月9日 ]