思想家の柳宗悦(1889-1961)により、1936年に開設された日本民藝館。「美しい品物を、共に悦び合いたいためにこの民藝館を建てたのです」(柳宗悦)との想いは受け継がれ、80余年が経ちました。
80周年記念事業として実施されていた改修工事がこのほど完了。日本民藝館ではリニューアルオープンの展覧会が開催中です。
日本民藝館 外観
柳宗悦の構想によって作られた日本民藝館。今回の改修では、建築空間を創建当時の姿に近づけるのが基本的な方針です。大きく変わったのが新館の大展示室。栃木県産の大谷石が敷き詰められ、壁面には静岡県産の葛布を貼る事で、開館当時の雰囲気が再現されました。
照明もLEDに変更。壁面には展示ケースを設置した事で、他館からの貴重な作品の借用にも対応できるようになっています。
今回の展覧会では、大展示室は「陶磁器の美」を紹介。柳を工芸の世界にいざなった朝鮮の陶磁をはじめ、中国陶磁、日本の焼物、英国のスリップウェアを中心とする西洋の陶器など、陶磁器の名品が集結しています。
生まれ変わった大展示室 「陶磁器の美」
館全体で日本民藝館が誇る貴重な作品を紹介している本展。順路は設定されていませんが、展示室ごとにご紹介していきます。
「物と美」に並ぶのは、漆絵の瓶子や椀、螺鈿細工の菓子箱、囲炉裏で用いる自在掛や横木、湯釜や灰ならし等の金工品など。柳宗悦は日常の暮らしのなかにある様々な工芸品の中に美を見出しました。
「物と美」
続いて「茶と美」。茶の湯に強い関心を持っていた柳宗悦。日用雑器を茶道具に見立てた初期の茶人達の自由な眼を尊び、民藝館茶会や茶器特別展を催したほか、茶に関する論考も書いています。柳が理想とした茶の湯への美意識が紹介されています。
「茶と美」
本土とは異なる独自の美は、柳も「島で作られたものに一つとしていやなものはない」と心を躍らせた沖縄。「琉球の富」には自然豊かな南国の風土から生まれた、色鮮やかでまばゆい紅型の衣裳、格子縞に琉球絣が施された手縞や芭蕉布の織物など沖縄の名品が並びます。
「琉球の富」
日本全国に慈愛に満ちた笑みを湛える微笑仏を残した木喰。その存在は長く忘れられていましたが「幕末における最大の彫刻家だ」と再発見したのが柳宗悦でした。「木喰上人の彫刻」では、木喰仏をはじめ、庶民信仰の神仏像が展示されています。
「木喰上人の彫刻」
「朝鮮とその藝術」では、朝鮮時代に作られた木工品・金工品・石工品・絵画などを紹介。多くは柳と浅川伯教・巧兄弟たちが朝鮮半島で蒐集したものです。当時、誰も目を向けていなかった朝鮮工芸に強く惹かれた柳。以降、器物への関心と民族固有の造形美に着目していく事となります。
「朝鮮とその藝術」
柳は「大無量寿経」第四願から啓示的感激を受け、1948年に『美の法門』を書き上げました。その後、宗教上の真理と工芸美に深い結縁を見た柳は「仏教美学」を構築していく事となります。「美の法門」では仏教ゆかりの品を中心として通観します。
「美の法門」
江戸時代、大津宿から京へ至る街道で量産された大津絵。近年も人気を集めており、東京ステーションギャラリーで昨年開催された「もうひとつの江戸絵画 大津絵」展にも、日本民藝館が所蔵する大津絵が数多く出展されました。柳は1929年に『初期大津絵』を上梓、その芸術性を高く評価しています。
「初期大津絵」
深澤直人館長が「当時の姿に戻した改修なので、“生まれ変わった”のではなく、“生まれ戻った”」と説明した、日本民藝館。ここが他館と違うのは、建物自体が民藝の象徴になっている事です。
本館と西館は、この3月に東京都指定有形文化財(建造物)にも指定されました。展示されている古作の逸品とあわせて、建物の魅力をお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年4月3日 ]