スペイン現代美術界の巨匠ミケル・バルセロ(1957-)の日本初となる大規模個展が大阪中之島・国立国際美術館で始まりました。本展は初期の作品から現在に至るまでの93点で構成され、彼の仕事の全貌が紹介されています。
右/《海のスープ》1984 左/《細長い図書館》1984.02-1985.03
《会場風景》
バルセロの大きな特徴の1つは、絵画、彫刻や陶芸など美術におけるジャンルを横断しながら、様々な制作手法で独自の世界を生みだしていることです。
会場すぐに《マッチ棒》《カピロテを被る雄山羊》のブロンズ彫刻、画面から棒が突き出た絵画《海のスープ》、陶芸《トーテム》などが紹介されており、そのことがすぐに実感できます。
《会場風景》
右/《とどめの一突き》1990 左/《亜鉛の白:弾丸の白》1992
《恐れと震え》では大蛸が画面いっぱいに描かれています。下地に皺が寄せられていて蛸の足がくねくねと動いているかのよう。《ルーブル》は、まるで砂絵を見ているような面白味がありますし、陶芸作品《カサゴの群れ》では壺の側面に入れた切り口を魚の口に見立て絵付けされています。どれも見るほどに発見があり、尽きることがありません。
会場を巡るうちに、同館で2008年に開催された「エミリー・ウングワレー展」でのオーストラリア先住民族アポリジニ出身のエミリーが描いた抽象画を思い出していました。見上げる大画面から発せられる瑞々しいエネルギーに思わず深呼吸したことも覚えています。
今、バルセロの作品を前に似たような気持ちになっていきます。いえ、もっと泥臭く、強いものかもしれません。大胆な筆跡、触って確かめたくなるようなテクスチャー仕上げの大型絵画。土に身をゆだねて焼き上げたような陶芸作品。
バルセロから湧き出るイマジネーションに巻き込まれていきます。足元から熱を感じると同時に、静寂で広い神秘的空間へと導かれていくようです。
《会場風景》
今回、3本の映像も紹介されていて、中でも2015年スイスで上演されたバルセロと振付家ジョゼフ・ナジのパフォーマンス《パソ・ドブレ》は強烈な印象を残してくれました。
彼らが背丈以上の高い土壁に向かい、手で穴を開けたり、力任せにたたいたり身体を動かし続けます。6分程度という短さですが、バルセロ作品の根底にあるものが見える気がします。周りの材料となりうるもの全てが導くままに、手を、体を動かすことが、彼の世界観を築く土台であるのではないでしょうか。
《会場風景》
《会場風景》
本展はこの後、長崎県美術館、三重県立美術館そして東京オペラシティアートギャラリーに巡回します。ぜひ実際に作品を堪能し、バルセロの世界を味わってください。
《会場風景》
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2021年3月29日 ]
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