みなとみらいのビル内にある小さな美術館。初めての訪問だと、存在に気づかないかもしれません。2階にひっそりと佇むみらい美術館の「エミール・ガレ展」を紹介します。
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みなとみらい学園ビル内 2階「みらい美術館」
扉の中は、アール・ヌーボー、アール・デコ時代の空気に満たされています。エミール・ガレ(以下ガレ)をはじめとするガラス作品が常に50点ほど並び、じっくり濃密な時間を過ごせます。
美術館を開設した鶴見輝彦氏(故人)は、みなとみらい学園の創始者。ガラス工芸品の収集家でも知られます。学生や地域の方々にガラス工芸を親しんでもらうために2016年、美術館をオープンしました。
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展示室入口
ガレ100%の展覧会
学芸員の野依良之氏に、展覧会の見どころを伺いました。作品数では、ガレの没後に制作された工房作品が中心で、発色のよい大型で、繊細な装飾の良品を展示しています。
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アイリス文花器 鶴見輝彦氏のお気に入りと解説する学芸員 野依良之氏
和を感じる風景の花器は、色ガラスを重ね、複雑な工程で繊細な彫刻を施し、非常に高い技術を要します。鶴見氏がフランスに赴き、選び抜いた作品です。
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ガレ工房 風景文花器 大型
両端の大型ランプも必見。ここまでの大きさは、なかなか目にできません。
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ガレ工房の大型ランプ
ガレ作品を通観
ミニマムな館内ですが、ガレの初期、エナメル彩から、植物や海のモチーフ、晩年の円熟期まで全貌が通観できます。生前、工房期の逸品を網羅した構成です。
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生前のエミール・ガレ作品
注目はナンシー派美術館とここ、2体だけの希少作品。紅葉を張り付けた象嵌という特許技法で作られました。
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紅葉文花器 1900年頃
唯一無二のフランスの薔薇
一押し「フランスの薔薇」大壺は、文献で確認されていましたが行方不明、「幻の名作」でした。ヨーロッパの個人コレクターに秘蔵されていたことがわかり、数十年ぶりにみらい美術館へ。ガレが全力を注ぎこんだ集大成、超絶技巧を解説していただきました。
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「フランスの薔薇」大壺 1902年
立体的な蕾がアップリケのように溶着されています。厚みがあり、本体とは性質が違うガラス、冷却時、収縮率の違いからヒビ割れがおこりやすく、完成に至るのはまれです。
さらに蕾表面や壺全面に、手の込んだ装飾を彫刻。破損する危険はより高まります。制作過程を知ると完成したことが奇跡に思えてきます。
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「フランスの薔薇」大壺 1902年 部分 蕾
一方、裏側は、手を加えていない部分があります。あえてガラス生地を見せたいのでは?と野依氏は推察されています。
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「フランスの薔薇」大壺 1902年 部分 裏
蕾を下から透かすように見て下さい。透過性の違うガラスを絶妙に組み合わせていることがわかります。
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「フランスの薔薇」大壺 1902年 部分 蕾
さらに蕾の縁には水滴が? 先端をツルツルにカットし光を反射させた輝きだそう。そんな美しさを引き出すため試行錯誤の連続。結果、ドイツに専用ケースを特注したと言います。
みらい美術館は、他館では目にしない作品と出会えます。それは個人コレクターと強いパイプを持つ野依氏により、博物館には貸し出さない良品がもたらされるからです。 小さい美術館ですが、選び抜かれた作品を、心ゆくまで鑑賞できる静謐な時間が流れています。眠っている作品の魅力はまだまだあるはず。自分の目で目覚めさせてみてはいかがでしょう?(写真撮影可)
[ 取材・撮影・文:コロコロ / 2021年3月12日 ]
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