イコンという言葉は、もとはギリシャ語の「エイコン」が変化したもので、英語では「アイコン」、ロシア語では「イコーナ」とよばれます。いずれも像、イメージを意味する言葉で、日本語では「聖像画」と訳されています。
イコンは東方正教の文化圏において4世紀頃から描かれはじめ、礼拝に欠くことのできない画像として使用され、人々の信仰の為に大きな役割を果たしてきました。正教会の聖堂内部には、祈りを捧げる聖所と、管理者のみが立ち入ることのできる至聖所を隔てるための仕切り(イコノスタシス・聖障)があり、そこにはめ込まれたイコンが礼拝に訪れる人を迎えるように立ち並んでいます。また、中世以降には、一般家庭用に小型のイコンが普及していきます。より身近な場所で飾られるようになったイコンは、家々の片隅に守られながら、信仰とともに大切に受け継がれてきました。
このように、イコンは宗教上の儀式の中で扱われ、継承されてきた歴史を持ちます。鑑賞する為に、また、作者の想いの表出として描かれたものでないことは、イコンのもつ大きな特徴であり、私たちが一般的に目にする絵画とは異なる意味合いが含まれています。今展では、イコンに描かれている人物や、構図や配置に見られる教義的な意味、一定のルールに基づいた制作方法などを紹介します。また、日本、ヨーロッパの各地では、イコンと出会い、絵画的魅力にインスピレーションを受けて制作に取り入れた作家も登場しました。イコンとの出会いがどのようなもので、作品にどう反映されたのか、20世紀に足跡を残した作家を取り上げました。
当館のイコンコレクションは館長西田安正によって1970年代に始まり、1993年の開館以来、継続した常設展示を行ってきました。この度、国内のイコン収集では最大の規模をもつ玉川大学教育博物館と金沢美術工芸大学の協力を得、あわせて約50点を展示する機会に恵まれたことに、心より感謝いたします。