今回、千葉市美術館はその才能を高く評価されながら、1980年代前半に早世した二人の美術家、文承根(1947-82)と八木正(1956-83)の遺作展を、京都国立近代美術館と共同で開催します。本展覧会は70年代から80年代初頭の日本現代美術の転換期に、多大の可能性を含んだ質の高い作品を残した二人の美術家の業績を、美術史の流れに沿って再評価を試みようとする第一歩の展覧会となります。
文承根は1960年代末に世界的に有名な前衛美術集団「具体美術協会」の展覧会に参加。同会解散後は独自の表現を求め、京阪神地域を中心に個展を開催する一方、国内外のグループ展に出品していました。70年代に制作した、色を何層もぬり重ねた水彩や、街の一瞬の光景を撮影した写真を素材とした版画作品は、その低くつぶやくような繊細さによって、今もなお回顧されているだけではなく、近年新たに若い世代の関心を集めています。
一方、八木正は前衛陶芸家・八木一夫と染織作家・高木(八木)敏子の次男として生まれ、京都市立芸術大学在学中の1970年代後半より東京や関西の画廊で主に個展を通じて彫刻作品を発表していました。一枚の板に別の板をはめ込むような、簡潔なスタイルを特徴とした作品は当時の美術状況を反映している一方で、父ゆずりの造形思考を受け継いだものと評価することができます。
文承根と八木正の制作はいずれも病のために道半ばで中断していました。今日のように若い世代のアーティストたちがジャーナリズムの脚光を浴びるような状況とは異なる1970年代後半、彼らがどのような思いを持って自分たちの制作に向かっていたのか、遺された作品約50点でたどります。